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その21 雇用における3つの無限定性

以前、「その18 ラベリング」の稿で雇用における3つの無限定性に触れました。今回はこれについてお話したいと思います。
日本の経済を支えた無限定性とメンバーシップ型雇用
 日本型雇用の代表的類型として挙げられるのがメンバーシップ型雇用です。
私もリアルタイムで見たわけではないのですが、植木等が主演した「日本一のゴマすり男」(1965年)をはじめ、クレージーキャッツというバンド?メンバーが出演している「クレージー映画」という映画のカテゴリがあったそうです。高度経済成長期、作ればモノが売れる時代に立身出世を目指してガムシャラに働くサラリーマンを揶揄する映画でした。この映画を見ていた人たちは、自分にはできない破天荒な言動とあっという間に出世していく主人公の姿に憧憬を抱いたのではないかと思います。 

逆説的には生産性の向上を一義とする定型化された就労スタイルや生産システム、あるいは年功序列とそれに紐づく賃金制度へのアンチテーゼだったのではないかと考えてしまいます。
 正社員が主要な選択肢の時代に企業に入ったひとは、定年退職というゴールを目指して、組織内のキャリア・アップのために、勤務地、職務、残業などが無制限に設定できる人事制度を受け入れてきました。その背景には、経済成長や社会保障が継続し、自身が定年後も生活が保障されるモデルが定着していたからではないかと思われます。

 企業視点で申し上げるなら、雇用の無限定性を前提に企業内で社員を育成・活用できるモデルは、成長、拡大を目指す組織の意図を反映できる効率的な仕組みと表現できます。世間では就職ではなく「就社」といった言葉もあるようです。

 このように、日本型雇用の代表的類型であるメンバーショップ型雇用と無限定性は、私たち働く者と組織との間で密接な関係性をもってその成長を支えてきたということです。


無限定性の課題とは
 無限定性の課題は働く私たちの価値観が多様化する中で、必ずしもその雇用の前提が適用できない可能性が高まっているということです。同じ軸で見ることが正しいとは思いませんが、大卒の3年離職率が3割を超える状態も無関係ではないように感じています。
「その20エンゲージメント」でお話したエンプロイー・エンゲージメントと同様の意味で、組織・企業側が選ばれるための工夫、離職を避けるための工夫の一つが多様な働き方を受け入れる、仕組みを整理することにあるのではないかと私は考えています。

「多様な正社員」制度利用状況
 多様な正社員の仕組みは、厚生労働省の『「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会』で検討され、2014年に報告書として公表されています。この時のターゲットは、このブログのタイトルになっている3つの無限定性に対応するものでした。その結果として『勤務地などを限定した「多様な正社員」の円滑な導入・運用に向けて』というパンフレットが厚生労働省から配布されています。

 正社員←→多様な正社員←非正規雇用の区分けがあって、多様な正社員は正社員と非正規雇用の間に位置付けられています。非正規雇用からの転換で雇用を安定させる機能と、正社員・多様な正社員の両方向の転換を実現させることで、「ワーク・ライフ・バランスの実現」「雇用の安定、処遇改善、キャリア・アップ」「優秀な人材の確保・定着・多様な人材の活用」を図るということでした。

 実装の動向について厚生労働省がまとめた調査結果がありますので下表に転記します。 

令和4年度雇用均等基本調査 調査対象常用労働者5人以上の事業所6,300、有効回答数3,339事業所

 前述のとおり「多様な正社員」の制度は、2014年に報告書やパンフレットが世に出た経緯、その内容を見ると非正規雇用を「安定的な正規雇用」に転換していってほしいという労働施策上の意図があります。上の表に挙げた数値は、企業内で制度が整っていて尚且つそれを利用した割合となっています。
 このような、「多様な正社員」の仕組みも、選択肢として準備することも企業の人事戦略として有効ではないかと思います。

ジョブ型雇用(一般論として)
 メンバーシップ型雇用という言葉が出てきましたので、ジョブ型雇用についても少しお話しようと思います。
 メンバーシップ型雇用における評価・報酬の仕組みが職能資格制度であるのに対してジョブ型雇用におけるそれは、職務等級制度ということになります。(似たような名称なので分かりにくいと思いますが、大切なところですのでじっくりと読み込んでいただけるとありがたいです。)

 大きな違いは対象とする仕事の内容が決められているか否かということになります。職能資格制度では等級を変えることなく、仕事の内容を変えることが可能です。しかし、職務等級制度では仕事毎に、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)で仕事内容を明確にする必要があります。ジョブ型で雇用された人に異動をお願いするのであれば、雇用契約を修正して雇用契約を結びなおす必要があります。

 極端な例で申し上げますと、インフラ整備のプロジェクトマネジメントという仕事で入社した人が、その案件が終了して同様の案件がなく、工事を担当してもらおうとする場合は雇用契約をやり直さなければなりません。また、そもそもその仕事ができることが前提となりますので、新人は採用が難しくなりますし、仮に新人を採用してそこで育成していくということになると、その職場の先輩の職務記述書に「新人育成」という仕事を追記しなければなりません。

 お仕事毎に職務記述書を作りますので、厳密にいうとお客様の要望で業務が増えてしまってもこれを作り変える必要があります。仕事の種類の多さ、それを変化・変更の都度に修正し管理し賃金と結び付けていく煩雑さは管理コストばかりが増えてしまう結果になりかねないというデメリットがあります。

日本での動向
 グローバル化による国際競争は、モノづくりであれば製造原価、サービス事業であれば提供原価の圧縮ないし、効率化を目指さなければならない環境になっています。ジョブ型雇用の経営視点でのメリットは、その仕事を市場価値で計測し賃金を決定していくという点です。メンバーシップ型(職能資格制度)では仕事の柔軟性というメリットと同時に潜在能力と発揮能力を評価するため、年功序列的な運用が避けられず、年々人件費が膨らむというデメリットがあります。ここ数年の大手企業の「ジョブ型」志向にはこういった背景があります。

 しかしながら、導入している企業のケースを見ているとガチガチのジョブ型ということではなく、役割等級制度(申し訳ありません。第三の人事制度が出てきてしまいました。簡単に説明すると役割の価値の大きさを評価する。)に近い人事制度であったり、適用対象とする職種を限定したり、育成制度との結合によって、ハイブリットな制度設計をしているというのが現状といえるのではないかと思います。

 単純なジョブ型かメンバーシップ型かという2極で考えるのではなく、それぞれの企業、組織に適した人事面での成長戦略を作っていく必要があると考えています。

ご意見、ご質問は ooshimatomohiro@gmail.com  までお願いいたします。


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