ほんのり怖い話 ホスピスの空室
お袋のホスピスに通い続けて1ヶ月と10日ほどが経ちました。
ホスピスって、やっぱり普通の病棟に比べると雰囲気がちょっと違ってて、看護師さんたちは凄い明るくていい人たちばかりなんだけど、末期がんの患者さんが多いから病室の移り変わりがとにかく早くて、なんとも言い難い気分にさせられる。
特に、各病室の「ドア」が人の命をこの世と分断させる合図になっていて、通常はホスピスのどの病室もドアは開放されているんだけど、患者さんの容態が悪くなるとドアが閉められ、だいたい1日か2日後にはその病室が空き部屋になる。
ホスピスに1ヶ月以上通っていると、「ああ・・・今日はここの患者さんのドアが閉められている」「ここの患者さん、入ったばかりなのにもう空室になってる・・・」と、お袋の病室は病棟の一番奥なので、歩きながら患者さんの死を近くで感じ取れてしまう。
そんな感じなものなんで、ついつい、ドアが閉まっているとその病室の名札プレートを見てしまったり、空室になっている病室を覗き込んでしまうんだけど、先週、お袋の斜め向かいの病室のドアが閉められ、翌日の金曜日にはドアが開放されて別な患者さんが入っていた。
ホスピスって、時期によっては空きがなくて、お袋もそうだったんだけど、最初に一般病棟に入って、空き次第、ホスピスに移されるんで、この患者さんも病室が空いてすぐに移されたんだろうなーと、歩きながらついつい覗き込んでしまった。
この病室に入っていたのは、おそらく男性。おそらくと言うのは、ベッドに座って窓の方向を見ていたので、後ろ姿しか見えなかったので、体つきから男性かな?という印象で、ただ、珍しいのは、ホスピスは末期がん患者がほとんどなので、寝たきりの患者さんが多いということ。
だけど、この患者さんは閑散とした病室のベッドに座って、ただ窓の外を眺めているだけだった。
おそらく、今は症状はあまり出ていなくても末期の癌で手の施しようがなく、自分でもそれを受け入れられずに悲しい思いで窓の外を眺めているんだろうな・・・と、ちょっとこちらも勝手に想像して同情しながら、お袋の病室に向かいました。
そして、その2日後、義母と嫁と娘を連れてお袋のお見舞いに行ったとき、大を催したので廊下の途中にあるトイレに入り、お袋の病室へ戻り際、そういえばあの窓の外を見ていた患者さんはどうだろう?と妙に気になり、こっそりと病室を覗き込んでみることに。
すると、病室は空っぽ。
名札プレートも何も入っておらず
もちろん、荷物も布団すら無い状態。
考えてみると、二日前にこの患者さんを見たときも、やけに病室内が閑散としてて、荷物らしい荷物もなく、ただ患者さんだけが布団もないベッドの上に座っていただけという印象。名札プレートが入っていたかは見ていなかったことに気づきました。
ベッドの上に座っていた人が、二日間で慌ただしく亡くなったのか・・・????
お袋の病室に戻り嫁にその話をすると
「そもそも、患者さんが入っているのに、布団もないなんておかしいよ」
「ここって女性病棟だよ。男性がいるわけないよ」
「その人って、見ちゃいけない人だったんじゃないの?」
ゾクッとしました。
気づかなければ一生気づかないけど、気づいたら気づく。それが幽霊。
稲川淳二の言葉を思い出しました。
実際にあった、ほんのり怖い話でした。
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