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人様を真似るということ

僕はあまり記念日を重んじない。
そんな僕がだ。2020年4月13日ってのはしばらく忘れられない日になると思う。「一生〜」とか「絶対〜」とかは言わないでおく。
僕は何かにつけて保険をかけるタイプだから。
「しばらく」程度に留めてるのだ。
そもそも振り返るにはあまりに時期尚早だし、語るには何も成し遂げてなさすぎて、面映い感情を、雪に顔突っ込んだヤンチャ坊や翌朝の霜焼けよろしく、パンパンに持ち合わせちゃってるけど。
まぁこれから成し遂げるという所信表明として、将来の僕が見てニヤニヤできるような文章を自分にプレゼントしてあげたいと思う。
きっとその時の僕も活字が好きだろうから。


およそひと月前、tiktokにモノマネをあげた。
モノマネをしたのは髙橋優斗さんという方。天下のジャニーズ事務所に所属されているタレントさんで、HiHi Jetsというグループで活動されている。
それはそれはとんでもない人気を誇るが、まだデビュー前の所謂、「Jr.」で、老若男女問わず知っているかといわれるとそうではない。なぜ真似するに至ったのか。

この話にはキーマンがいる。ながのやすあきさん。
吉本興業の先輩芸人で、普段はミシェルというコンビで主にBLコントのようなものをされてる。BLコントを得意とされるだけあってキュートな顔立ちをされている。だから心の中では「キューティーハニー」って呼ばせてもらってる。僕の心の中で限定の呼称なのだから、もう全然面白くなくたって誰にも文句は言わせやしない。
表では、「ながのさん」心の中では「キューティーハニー」
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この方の特徴をもう一つ挙げるとしたら、間違いなくジャニオタってこと。もう本当にジャニーズがお好きで。SMAP×SMAPのコントを観て、芸人を志すという、SMAPさんも解散した今、金輪際もう出会えないんじゃ無いかなって志望動機を抱えて、吉本の門を叩いたお方。

「ずっと言いたかったんだけどさ、石井って髙橋優斗くんに似てるよね?」

ながのさんと膝付き合わせて、初めての会話だったと思う。
今となっては当時の自分を根こそぎ千切ってやりたいが、僕は髙橋優斗さんを存じ上げなかった。そしてすぐには調べもしなかったことは、おでこがなくなっちゃうまで土下座したい。
それからも、ことある度に話し方や笑い方がそっくりだという指摘を受けながら、自然とカレンダーはめくれていき、やってきた4月12日のAM3時頃。
ながのさんがインスタライブをやっていた。本来、先輩のインスタライブにはあまり顔を出さないのだが、近しい距離感も相まって、何の気なしに覗くや否や、ここからは速かった。

「あーー!!石井!!?あ、コイツコイツ!!今話してたの!石井!コラボ!」

こりゃまた、キューティーハニー。時間にそぐわないテンションだな。と思い終わらないうちに、スマホの画面には眠そうな僕の顔が映る。

「石井!しゃべるな!」

え?

「こいつねー、声なのよ。ここからなのよ。」

コラボして喋るなって言われたの初めてかもな。

「石井、どうぞ!!」

「。。。なんすか?笑これ。」
僕が第一声を発した時、コメント欄の流れがほんの少しだが速くなった。
「これは似てるわ。笑」 「やばw」視聴者の方が口々に言う。

「石井、やっぱ、ゆうぴに似てんだって!マジで動画上げなよ。分かった??明日!明日までに絶対あげて!?いい??約束だから。はい。バイバーイ。」

キューティーハニーという嵐は去っていった。
体感は、まばたき8回分での出来事。
人は1分間に平均20回らしいので、24秒間。そんなわけはない。嘘をついた。15分くらいはしてたもん。
とにかくこの時、一人になった僕は、初めて髙橋優斗さんを拝見した。

震えました。
画面には後光が差し込まんとばかりに輝かしいお顔の数々が並んでいたから。
震えた後、怒りにも似た感情が立ち上がり、「いや、似てるかぁ〜!!」とソファーにスマホを投げつけたのを覚えている。僕のソファーが古田敦也ばりのキャッチング技術があって助かった。そのおかげでその後の撮影は順調に進んだのだ。

先にも言った通り、僕はめちゃくちゃ保険をかける。
需要がないから~とか、僕なんか~とか。そんな僕が、まさか天下のジャニーズアイドルのモノマネをネットにあげるなんて、そりゃまー、自分を一旦馬乗りになってタコ殴りして自我を失わせて、薬漬けにしないとできない所業である。最後も動物のが良かったね。

ともかく、こりゃ、どーにも引き下がれない状況。。
ここで腹を決めた僕は、投稿にあたり二つルールを自分に課した。
・目的は面白い・楽しい。
・しかしファンの方含めた、リスペクトを忘れない。

要するに、前投稿に引き続き、「叩かれないように、死ぬ気で頑張ろう」って話だ。申し訳ない。

特に人が大事にしてる何かを真似るというのはやはりその人たちへの配慮を忘れちゃいけない。面白ければいいって誇張してしまうのは中々考えもので、少なくとも僕には似合わない。そもそもできない。そして、それは大抵好きな人からすれば全く面白く無いわけである。もちろん何かを表現するにあたって万人が認めるものはほぼ不可能と言っていいし、どう切り取るかも自由。ただ、このケースでは、100パーセント似せていると思えないと、僕のメンタルが持たないと判断した。

そんなこんなで動画を見漁り、自分の顔がゲシュタルト崩壊する手前まで似てる角度やメイクを、家じゅうの服を引っ張り出し一番似てる服を、馬鹿にしていないファニーの切り取り方を探した。そんなこんなで結局8秒の動画に丸一日を費やしたことになる。中でもその所要時間の一位は「投稿ボタンを押す親指」が受賞していて、これは誇張じゃなく、ちゃんと小刻みに親指が震えて、「こんな玩具が出たら、ヒットするのでは?」とエロティカ石井に改名した瞬間もあったし、「やっぱ無理~~~」と古田敦也モデルのソファーに何度か顔はうずめた。
大げさではない。皆さんも考えてみてほしい。
全く似てないと思いながら、東京ドーム即完化け物アイドルグループのメンバーをマネする気持ち。こちとら大の巨人ファンなので、東京ドームには何度も足を運んでいるが、同じ行くでも、「出る側」のと「観る側」は全く違うだろう?放送席~~。
誰とも会えない在宅ワーク。仲間とネタにして笑いに変換もできない状況で、一人で大炎上なんてしようもんなら、僕はアマゾンで用途限定でシメナワを購入していただろう。

その後、なんとか親指の指揮権を取り戻した僕は、現実から逃げるようにひったくりの如く布団に走り込み、tiktokは開かずに寝た。



翌朝、恐る恐る開いたtiktokは一晩で10万回再生となっていた。
人の波と言おうか、圧と言おうか。SNSってこうなんだ。
とにかく鼓動が早くなるのを感じた。細々と商店街で文具店を営むオヤジは、ジャスコやイトーヨーカードに行くとこういう気持ちになるのかもしれない。

ここからは更にも増して怒涛に降りしきる雨の如く、時は流れた。
投稿し次第、優斗さんの動画を見漁って、朝は塗装のバイトに出かけ、帰ってきたら撮影。また動画を見るの繰り返し。もちろん厳格なルールに乗っ取って。
気づいたら2日が経ち、動画の再生回数は50万回を超えていた。
3日目にはDMが100人以上からくるようになっていて、そういえば飯食ってねえわ!と気づき、豚の生姜焼きを口に放り込み、地方からもファンレターが届くようになっていて、1週間が経過。気づいたらインスタライブで騒がしい生徒を叱る先生のようになっていたし、僕を応援するLINEグループが出来上がってて、「よこがおさん」というファンの愛称ができた。
そのうち公式LINEにお悩み相談が寄せられた時には、大学中退。高卒の経歴を忘れて、めちゃくちゃカッコつけて、心のバリトンボイスで回答していた。

どれも万とか千の単位なわけじゃない。100人規模ではあるが、この未曾有の社会状況も相まってか、その濃度というか、熱量とスピードは異常としか言いようがない。本当に毎日驚かされている。そして感謝をしてもしきれない。
芸人を始めて早2年が経過。こんなにも実感として人の役に立っていると感じることはない。リスペクトは伝わるんだという嬉しさ。
「人を楽しませたい」というこの職業人、根本の理念は見事に受け皿を得た。やはり何事も手順は大事なのかもしれない。

この嵐。いや最早、ハリケーンのごとく僕の生活を一変させた皆さんの力は、2020年5月7日現在、まだ勢力を拡大中だ。このまま去らないことを願うが、いつかこの勢いがいつか温帯低気圧となり、望んでいない晴天が訪れてしまったとしたら、このハリケーンにはもちろん僕は「キューティーハニー」と名付ける。ながのさんと、よこがおさんに感謝を込めて。



どう?未来の僕。今の僕は面白いかい??


あなたのおかげでバイトの時間を減らせます。 マジで助かります。マジで