消えゆく検定教科用図書 中学校公民編

前回は清水書院の中学校歴史を取り上げた。
今回は同社の931 中学公民 日本の社会と世界 を取り上げる。

本書もシェアが伸び悩み、退場を余儀なくされたと思う。
結論を先取りするなら全くその通りで、歴史よりも使いこなすのは難しい教科書となっている。
ただし、適切な教師が適切な指導を行えば、化ける要素はあると含んでいるが、現場にそれを求めるのは難しいであろう。

歴史と同様で見開き完結の清水流を貫いている。しかしながら公民では、既習事項・未習事項含めてページの行ったり来たりというのが全体的に散見される。これではあっちこっちページをいったり来たりしないと行けないため、学習しづらい。
さらに、記載不足もある。
例えば雲仙岳が噴火した年を1792年としているが、1991年の災害は、火砕流・土石流だから噴火ではないと同社は言い張るつもりなのであろうか。島原市や雲仙市はクレームを入れて良いレベルである。
他にも、第二次産業の定義が欠落しているし、領土問題を出すなら南樺太に触れていないし、独占禁止法の下りではトラスト/コンツェルンも記載ないし、経済発展ではNIESも記載ないし、有限責任社員の定義はあるものの無限責任社員は言葉だけ。と、南樺太は横においておいても、中学校レベルで既習すべき内容(の記載量)が足らないのである。

しかしながら、他方で高校レベルの記載もある。例えば中距離核戦力全廃条約やいわゆるSALTについてはかつての高校政治経済で頻出項目であった。年表扱いではあるが、中学校で習うかどうかは微妙な線であろう。(高校では当たり前レベルであるが、近年の共通テストには出ない・・・)さらに貨幣の役割の説明は秀逸。同書の記載内容を理解/咀嚼して、岩井貨幣論を読むことが、暗号資産理解の前提となる。また、直接金融と間接金融については一橋ビジネス基礎でも問われたことがあるが、同書の説明をまずはベースに高等学校の教科書で肉付けして解答・・・、というほどなかなかうまくまとめている。
なお、民族間の対立と宗教紛争の項目は何回読んでも論理が本稿筆者にはわからない。これは審議対象であろう。

今回も、例によって現行教材との比較分析は行わないものの、上述のように欠点が多い。というわけで残念ながら諸手を挙げて勧められない。
政治経済教材研究者であれば確保しても良いかとは思うものの、積極的に確保するものでもないかと思う。
しかしながら中学校の検定教科用図書は、違うところでブームになりうる(生涯学習絡みで)要素もあるため、油断はならない。として本稿をしめくくりたい。

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