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「敵が攻めてきたらどうするのか」論について

 歴史をみればわかるように、日本は、幸運にも、「敵」が攻めてくる事が極めて少ない国です。
 数少ない例外は、相手が派遣した外交官を殺害したために発生した「元寇」と、真珠湾攻撃という「敵基地攻撃能力」を行使して、アメリカに反撃されたアジア太平洋戦争くらいなものです。
 にも関わらず、何かあるごとに、「敵が攻めてきたらどうするのか」などという言説が出てきます。
 そして、日本の政治家の多くは、「敵が攻めてきたら、自衛隊による防衛戦争を行う」という考えを持っています。
 反戦平和を主張し続けてきたと宣伝している日本共産党ですら「政権に入ったときに『敵』が攻めてきたら、自衛隊も日米安保条約も活用する」などと発表してしまいました。
 もちろん、侵略を受けた場合に個別的自衛権を行使するのは、国際法で認められた権利です。
 しかしながら、筆者は二重の意味でこの「敵が攻めてきたら、個別的自衛権を行使して自衛隊で防衛戦争を行う」は間違っていると考えています。
 それについて、以下に述べます。

個別的自衛権を行使しても日本で暮らす人の命は守れない

 もし、個別的自衛権を用いて防衛戦争を行えば、日本で暮らす人の死傷者はゼロになる、という事であれば、筆者はこの主張に賛成するかもしれません。
 しかし、そのような事はありません。
 現にウクライナでは、総動員令により多数の住民を徴兵し、アメリカをはじめ世界各国から様々な武器の供与を受けて防衛戦争を行っています。
 しかし、住民の命は守られていません。市街地にミサイルが連日のように撃ち込まれ、多くの命が奪われ続けています。
 もちろん、絶対的に悪いのは侵略戦争を始めたロシアです。
 とはいえ、いくら個別的自衛権を行使して防衛戦争を行っても、ウクライナに住む人々の命と暮らしを守れていない、とう事実を無視するわけにはいきません。

 過去の日本もそうでした。小規模だった「元寇」はともかく、アジア太平洋戦争では、多くの命が奪われました。
 もちろん、この戦争は大日本帝国が仕掛けた侵略戦争が発端です。しかし、アメリカの反撃により「敵が攻めてきた」という状況になりました。
 その時点ですぐさま降伏していれば、東京大空襲も広島・長崎の原爆もなかったわけです。
 にも関わらず、特攻隊だの人間魚雷などといった異常な手段まで使って「防衛戦争」をして敗北を長引かせた結果、多くの命が奪われ、主要都市は焼け野原になりました。
 なお、この年の大日本帝国は、国家予算の七割が軍事費でした。しかし、その軍事費は日本で暮らす人々を守るのに役立たなかったのです。
 そして、アメリカに占領されました。数年後に「独立」は回復できましたが、今でも沖縄をはじめとする全国に基地があり、そこでアメリカ兵は、犯罪をしてもまず捕まらない、という「従属国」になり、そのまま現在に至っています。
 無駄な「防衛戦争」をしなければ、ここまで酷い結果にならなかったでしょう。少なくとも、千島をソ連に奪われずに済んだ事は間違いありません。

 もう一例を挙げると、その第二次世界大戦でのソ連があります。
 この戦争において、ナチス・ドイツの侵略を受けたソ連は戦死者1,420万人、民間人死者700万人という膨大な死者を出しました。
 その結果、戦争には勝利して「国」は守られました。
 しかし、その守られた「国」とは、独裁者スターリンが恐怖政治を行う国でした。自国に住む2,000万人以上の命を奪いながらも、スターリンは「国を救った英雄」になってしまいました。
 それにより強大化した権力で、大量粛清などさらなる悪政を行ったわけです。

 そもそも防衛戦争を行うという選択をした時点で、「一定数以上の住民が死んでもかまわない」という前提があるのです。
 筆者は、それは誤った政治だと考えています。
 政治を行う人は、その国に暮らす人の命を守ることを最優先すべきです。      「国の威信」などは、それに比べればとるに足らないものです。
 繰り返しになりますが、日本で暮らす人の命を守れない以上、個別的自衛権など行使すべきではないのです。
 誤解している人が多いと思いますが、個別的自衛権というのは、「その国で暮らす人を政府が体を張って守る」というものではありません。
 実態は「その国の権力者を守るために、軍人をはじめ、その国で暮らす人の命を犠牲にする」ことなのです。
 今のウクライナの現状をみればよくわかるのではないでしょうか。
 他国と何らかの利害対立が発生した際に、絶対にしてはならない事は、「自国で暮らす人の命を奪う事を気にせず、軍事力で解決する」ことなのです。
 それ以外のあらゆる手段を用いて、問題を解決するのが正しい政治です。

そもそも「敵が攻めてくる」などという事態が日本にはない

 個別的自衛権を行使して防衛戦争を行っても、日本で暮らす人の命と暮らしは守れない、という話を前章でしました。
 しかし、それ以前の問題で、今の日本に敵が攻めてくる条件などあるのでしょうか。
 「仮想敵国」として、ロシア・中国・朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が挙げられますが、いずれも日本と戦争する意志など表明していません。
 「ロシアはウクライナを侵略しているではないか」という主張がよく見ますが、ロシアとウクライナの関係と、日本とロシアの関係は全く違います。
 もちろん、真珠湾のときのように、日本が先制攻撃を行えば、反撃されて攻め込まれるでしょう。逆に言えば、そんな事でもしない限り、「敵が攻めてくる」などという事はありえないのです。
 にも関わらず、それを前提にして、軍事費を増やしたり、「攻めてきたらどうするか」などと論議をすること自体が根本から間違っているのです。

今の政治が行うべきこと

 今の日本には様々な問題があります。
 長年、賃金は上がらず、物価高のために、実質賃金は減り続け、多くの人々の生活が悪化しています。
 さらに、今年10月からインボイス制度が実施されれば、個人事業主はもちろん、会社員や公務員などの生活にも悪影響を及ぼします。
 他にも、保育・教育・環境問題・政治腐敗問題など、今すぐやらねばならない事がたくさんあります。
 それらが何年経っても改善されないのに、非現実的な「敵が攻めてきたらどうする」などという事を論じること自体が間違いなのです。
 「敵が攻めてきたらどうするのか」と問われたら、「そんな非現実的な事は論ずるに値しない。政治がすべきことがたくさんあるなか、そんな無価値な問いをすること自体が間違っている」と答えるのが正解なのです。

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