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42人目

【42人目】Rさん、20代 歳下(poiboy)

マッチングアプリで多くの人と出会うようになると、やがて好奇心は増していく。

ポイボーイは完全なる好奇心だった。いや、少しヤケクソだったかもしれない。
真面目にアプリをやっていたってうまくいかなければ嫌気がさして、「もうどうにでもなれ」という気持ちになる。登録したのは多分そういう時だった。

しかしポイボーイは私には少しハードルが高かった。自分に自信のある男の子しかいないと思っていたからだ。そんな心を表すように、俯き気味の写真をプロフィールにしたのだった。

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やりとりをした中で印象に残っているのは2人。

1人はネタっぽい写真ばかりのプロフィールだったけど、一枚だけ載ってた笑顔の写真がタイプでpoiした。彼の陽なキャラに押されて会う勇気が出ず、なあなあにして終わった。おそらく彼女と同棲中。会わなくて良かったと思う。

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そしてもう1人がRさん。彼も私と同じ俯きがちの写真だった。かっこいいけどどこか陰のオーラを持つ人。

マッチしたばかりの時は、私には手の届くようなタイプじゃない気がして遠慮がちにやりとりをしていたのだが、メッセージを重ねると地元が近いことが判明。
決して人の多い地域じゃないので、それだけで急に距離が縮まったような感じがして素直に嬉しかった。

彼はまだ地元に住んでいるというので、私の帰る用事があったタイミングで会うことにした。

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地元の近くで出会うのは勇気が必要だった。ほんとに小さな街なので、近くに知り合いがいるかもしれない。すぐ人づてに噂が広まることも、私が地元をあまり好きではない理由のひとつ。

あとこれは完全なる偏見だけど、地元に残る同級生はいわゆるマイルドヤンキーだったりする。

周りを少しだけ気にしながら彼と対面した。そして、「地元の人ってこんな感じ」という私の中のイメージを破ることはなかった。

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お店は私が案内した。料理が美味しくてお気に入りのお店。カウンター席もあるので男の人と行くのにちょうどいい。

お酒を飲みながら話すのはやっぱり地元の話。そういうことを話せる人って都会に出てからほぼゼロだったから、久しぶりで楽しかった。ゆえにここでは恋愛の話をほとんどしなかった。

以前、やり取りの中で彼が野球をするのが好きと言っていたので、「バッティングセンターに連れて行ってほしい」とあらかじめお願いしていた。正直、会う口実にしたみたいなところもあった。

ほろ酔いになって地元の風にあたりながらバッティングセンターへ向かうまでの道は、青春時代に戻ったようなどこか懐かしい気持ちになった。

そして、彼はやっぱりバッティングが上手だった。

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一通りバッティングセンターを楽しんだ私たちは、流れでカラオケに入ることにした。

ほろ酔いの男女、夜のカラオケはエロい。

しかし彼をどうしてもエロい目でみることができない…。"地元の人フィルター"がかかってしまっていたのだ。
個室に入ると、身体の密着を避けるよう向かい合う形で座る。

しばらくして彼が過去の話を聞かせてくれた。
簡単に纏めると、彼女の家庭内で不幸があり、彼女を守ろうと今の職についてがむしゃらに働くも振られてしまった、という内容だった。
塞ぎ込むことが増え、友人から「遊べ」と勧められてアプリを始めたのだと言う。
泣きそうな声になりながら話す彼を励ますのは困難だった。

彼の辛さを頭では理解できても、私が彼の傷を完全に癒すことは難しい。たとえその日限りで心の隙間を埋めることが出来たとしても、明日からまた彼は自分の力で立ち上がらなければならない。

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カラオケを出ると、彼は帰りたくなさそうにしている。

しかし私の心はシラけていた。心ここに在らずな人とは、一夜でも遊ぶのはつまらないもの。お互いに今日という日が残念なものにならないよう明るくバイバイした。

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それからRさんとは会うことなく3年ほど過ぎ、つい先日久しぶりに連絡が入った。

今は地元を出て新しい職を探してるとのこと。前向きな口調だった。当時の彼女のために頑張った仕事を手放すことで、過去の辛い思い出から解放されたのだろうか?自分のやりたいことを探しながら新たな一歩を踏み出しているように映った。

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