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43人目

【43人目】Yさん、20代 歳下(pairs)

安定して継続していたアプリ、ペアーズ。
43人目のYさんは私より三つ歳下の男の子。

結論から言うと、彼とは短い期間だったがお付き合いをした。

肌はツヤツヤ、まだ就職したばかりと言う彼は目がくりっとしていて、はっきりとした顔立ち。そしてなんといっても小顔。
性格は大人しく口数は少なかったが、今時の若いテンションで来られるより何倍も居心地がよかった。

予約しておいてくれたお店のカウンター席に座ると、お互いのことを話した。
会話に幼さを感じるところもあったが、横顔がかなりイケていたので正直少し緊張していた。

歳下でもリードしなければいけない、というプレッシャーを感じていたのか、その日の飲食代を全て支払ってくれた。

帰り際にお礼を伝えると、

「いいんです、僕がそうしたいと思っただけだから」

と言われて思わずドキッとしたのを覚えている。

・・・

それから彼とは連絡を取り続け、2回目のデートで映画を見に行った。

余談だけど、付き合っていない異性との映画デートは緊張する。変なシーンがないかな、とか、ジュース飲む音聞こえちゃうかな、とか無駄に心配してしまう。

彼の気配を右肩にジリジリと感じながら、映画を見た。
彼は映画にとても感動していたようだった。

夜、予約をしてくれていたお店で食事を済ませると、こじんまりした大人のバーでもう一杯だけ飲むことにした。

彼は初めてのバーだったらしく、メニューを見るも「お酒がよくわからない」と言い、レモンサワーを注文してそれを静かに飲んでいた。
バーの薄暗い雰囲気にイケてる横顔がとても似合っていた。

そして、カウンターの下で手を握られた。指を絡めるような握り方だった。
酔っていたのかもしれないが、感情があまり表情に出ないタイプの彼は涼しい顔をしている。

思ったよりも大胆…とギャップに驚かされたのだった。

・・・

その後も連絡を取り続け、次第に日常の報告や写真が送られてくるようになった。いわゆる「俺通信」というやつ。これがむしろ嬉しい。興味ない人であれば嬉しいとは思わないだろう。

次回のデートの約束を取り付けると、提案された場所は誰もが知る有名なテーマパークだった。

付き合ってない男女が行って大丈夫なのか?と少し心配になったけど、行きたい気持ちが勝った。彼のことをもっと知りたかったし、2回のデートで2人の雰囲気は悪くないと思っていたからだった。

・・・

デート当日、彼はいつも通り爽やかなシャツに身を包んでいた。この日のために新調したのだと言う。かわいいと思った。

アトラクションに並ぶ間はお互いのことを知るのにいい時間だった。

写真を撮ったり撮られたり、もう普通のただのカップル。キャストのお姉さんにも当たり前のように恋人扱いされる。ちょっと照れ臭かったけれど、否定はしない。

・・・

日が落ちてそろそろ閉園となる頃に、景色の綺麗なところへ彼が行きたがった。
雰囲気でそれを察し、静かに景色を眺めていると、誠実な目でこちらを見つめながら伝えられた言葉は私と同じ気持ちだった。

色々な人と出会うなかで、"誠実な人"であることは私の中で大きな条件だった。
彼はちゃんと私と向き合ってくれている。そう思えたので、お付き合いを決めた。

「3つも上だけど上っぽくないよ」と言うと、
「大丈夫」と彼は私の手を握ったのだった。

・・・

ところがお付き合いは長くは続かなかった。

メッセージを送ればいつも同じスタンプが返ってくるのみとなり、元々口数が少ないタイプということもあって何を考えているのかいまいち掴めなくなっていった。

自分の意思を持って行動するタイプだと思ったし、歳下とは思わせない安心感がお付き合いを決めた理由の一つでもあった。それが途端に私の後ろをついて歩き、ことあるごとに私に頼りきるようになった。

「歳上だから甘えられる」というプレッシャーが辛かった。そして、そういうタイプの歳下とはうまくいかないことをわかっていたから、「上っぽくないよ」とあらかじめ伝えたつもりだった。

私の仕事が忙しい時期に入ると、コミュニケーションのズレは浮き彫りになった。
精神的に追い詰められていても、入社したてで定時退社できる彼にはなかなか理解されない。

会う予定を立てるにしても提案や下調べするのは私。本人は無意識のようだったが、提案した内容に文句をつけられることもあった。忙しい日々の中でそういった負担を感じるようになり、いつしか彼と会いたいと思えなくなっていたのだった。

・・・

別れを決意したのは、体調を崩してまともに食事ができなかった時に美味しい食事に行ったことを自慢されたことだった。明らかに皮肉も込められていて、なんとも言えない虚しさに襲われた。会えない日が続いたことに対する彼なりの私への攻撃だったのだと思う。

会えない時間が増えたことで、彼に辛い思いをさせていた自覚はあった。彼に構ってあげられない自分の未熟さに何度も嫌気がさした。でも大人になりきれていなかった私は、自分のことでとにかく精一杯だった。

ちゃんと話せば何か変わったかもしれない。ところがコミュニケーションのズレから深まった溝は、話し合いでなんとかなるとは思えなかった。

・・・

彼とは未だにSNSで繋がっている。
私と別れた後、わりとすぐに新しい恋人ができて幸せに過ごしているようだった。
私のようなタイプではなく、彼のことをちゃんと幸せにできる人と一緒になっていて素直によかったと思う。
これからも幸せでいて、と投稿を見るたびに思うのだった。

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