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競技かるたの余談・高校選手権の声かけ規制問題

ookomimiです。先日に団体戦の声かけ(かけ声・声出し)について投稿したところ、その後にタイムリーな話題が出てきました。先日の投稿とは異なる対処が必要になる場面も多いので補足も兼ねて投稿します。

タイムリーな話題というのは、本年(2024年)の高校選手権(団体戦)の声かけのことです。どうやら高校かるた連盟と全日本かるた協会の連名で声かけを規制する通知が回ったようです。私自身は通知を直接見たわけではないのですが、X(旧Twitter)に以下のような画像が投稿されています。


Xで拾った画像その1


Xで拾った画像その2


Xで拾った画像その3


この通知のなかで、影響が大きいと思われるポイントは以下の通りです。

① 特定個人に対する声かけは禁止
② 自分の取りをチームに伝える声かけ、持ち札をチームに伝える大声での札の移動も禁止
③ チーム全体に対する声かけは可能
④ 声かけは必要最低限度とし、大声は禁止

声かけの使い方が大きく変わりそうなのは①と②です。多くの団体戦で多用される「取ったよ!」「○○さん、ナイス!」といった声かけが禁止されます。個人的な印象ですが、通常の団体戦で使用されている声かけの半分以上は禁止対象ではないでしょうか。

また、④も影響は大きいと思います。そもそも③の「チーム全体に対する声かけ」(例:「○○高校ファイト!」)はそれなりのボリュームになるので(そうでないとチーム全員に声が届きません)、どこまでが許容される「チーム全体に対する声かけ」なのか、禁止される「大声」なのかの判断は難しそうです。この辺りの判断・運用の問題は後述します。

さて、この通知の内容ですが、大きく以下の2つの問題があると思います。

団体経験が乏しいチームが札合わせで著しく不利になる

通知の①や②の目的は終盤の札合わせの規制だと思います。恐らくは試合終盤に札合わせのための長考により試合進行が遅れる事態を避けたいのではないでしょうか。

私がこの通知を見て真っ先に思ったのは「団体慣れしているチームが圧倒的に有利だな」というものでした。

本当に団体慣れしているチームや選手は、終盤に札を移動させて持ち札を教え合うことはほとんどありません。なぜなら、札合わせをする選手同士で互いの持ち札が把握できている場面が大半なので、わざわざ試合を止めて札を教える必要がないからです。
例えば、札を拾うときに札合わせ相手の対戦を横目で見て札を確認します。2人で2勝なら敵陣にある札を軽く覚えてその中から送り札を選べば良いですし、2人で1勝なら味方陣の札を覚えてそこから送るだけです。1-2秒もかからないでしょう。札移動でチームメイトに持ち札を教えてもらうのは、1番席と5番席など距離が離れていて札を見るチャンスがないときくらいです。

また、いくら声かけを規制したところで、サインはいくらでも作れます。例えば、ある選手が送り札に手をかけたときに、隣の選手が「たまたま」首を縦や横に振る・素振りをして畳を叩く、ことは禁止できないでしょう。声かけについてどのような規制をかけようが札合わせはやろうと思えばできるのです。

ですので、団体慣れしているチームはこの規制の影響をほとんど受けないと思います。むしろ、団体慣れしていないチームが一方的に札合わせを決められて負けが確定してしまう、という場面が増えるのではないでしょうか。
さらにいえば、規制が厳しくなればなるほど規制をかいくぐるサイン等は複雑になり伝達に時間が掛かるので、(恐らく通知の意図するところであろう)試合の迅速化とは逆の結果になるでしょう。

なお、本筋からは離れますが、この通知の一番ダメなところは許容される声かけの例に「相手陣を攻めていこう」を挙げていることです。これが許されるなら「自陣を守ろう」や「普通に取ろう」も当然許容されるので、札合わせ時の攻め・守りの判断がサインを使わず堂々と伝達可能になってしまいます。
競技規程細則27条に従えば、団体戦であれ競技に関する助言等は原則禁止で「応援」のみが許容されうる、という結論になるはずです。だからこそどのチームも助言となりうる作戦共有はサインを使っていたのですが、まさか一番規制が厳しかった高校選手権で作戦指示が認められてしまうとは思いませんでした。団体戦での「攻めろ」「守れ」の指示の重要性を知らないのでしょうか。。。

禁止される声かけと許容される声かけの判別が困難

もう一つの問題として、この通知をそのまま運用しようとすると、実際には混乱を招く可能性が高いと思います。

例えば、②自分の取りをチームに伝える声かけは禁止ということですが、取った瞬間の「入った!」「ヨシ!」のような声はどうでしょう。
このような発声は個人戦でも許容されています。種村永世名人や渡辺永世クイーンのように試合中に頻繁に声を出す選手は過去に多くいましたが、それを禁止すべきという話を聞いたことはありません。松川永世名人や山下元準名人のような全日本かるた協会の要職にあった方も「入った!」はしばしば口に出していましたし、この手の発声は禁止できないと思います。なお、競技規程細則27条では「示威牽制等不適切な言動」が禁止されていますが、逆に言えば単なる気迫の発声のような「適切な言動」は禁止されていないはずなのです。
個人戦で許容されることを団体戦で禁止することはできませんから、このような声をどう扱うかは問題になると思います。「入った!」がOK、「取ったよ!」はダメ、では「取った!」はどうなるのでしょうか?「入った」なのか「取った」なのか判別できない「ったー!」のような声(結構言う人はいると思います)はどうでしょう。

同じく、④も難しい問題になると思います。
「必要最低限度」とありますが、自分に向けた「さあ一枚!」「集中!」といった声を頻繁に出すのはどうでしょうか。個人戦であればあまり良い顔はされない(「マナーとしてどうか」という意見はあるでしょう)が、表だって禁止することは難しいと思います。過去の名選手でもこの手の発声をされる方はいましたし、上記の通り「不適切な言動」以外の発声は明確には禁止されていないのです。
これは高校選手権では「必要最低限度」ではないので禁止されるのでしょうか。それとも、自分に向けた発声は規制対象外でしょうか。そうだとすれば自分に向けた発声かチームに向けた発声かは誰が決めるのでしょう。

また、大声は禁止とされていますが、会場中に響きわたる声での「入った!」はどうなのでしょうか。勝負所ではアドレナリンが出て普段より大きな声が出るものです。格式の高い大会でタイトルレベルの選手が大声で咆哮して札を取った場面も何度も見たことがあります。こういった行為も禁止するのはなかなか厳しいでしょう。

さて、このような曖昧な基準で団体戦を運営して、仮に大声の発声を行う選手がいたらどう対処するのでしょうか。
通知では「審判長・副審判長の判断で声かけを制止または禁止」とありますが、(審判長から判断を任されるであろう)各会場の審判がそのような重大な判断を迫られるのは気の毒な気がしますし、このような微妙な問題で会場ごとに判断基準が異なったら不公平です。実際には、判断がつかず試合進行が遅れたり、会場によって不統一な運用がされたまま競技が進行し、準決勝辺りで判断が割れて混乱したりする可能性が高いのではないでしょうか。
他にも、例えば大声での発声をした選手の「声かけを制止」したとして、その後に同じ選手がついうっかり大声で「入った!」と発声したらどう対処するのでしょうか。審判長指示違反か審判長判断での退場処分とする(競技規程細則27条(8)、28条)とする余地はありますが、今回の通知は、(規制の曖昧からして)そこまで考えているようには思えません。これも実際に生じたら大混乱になると思います。

小手先の規制をすべきではない

このように通知には問題が多いのですが、その原因は、対処したい問題に正面に向き合わず、小手先の声かけ規制をしたことだと思います。
恐らく運営側が改善したい問題は2点で、終盤札合わせによる試合進行の遅滞(①と②で対処)と、大声での威迫的な声かけ(④で対処)だと思います。団体戦を見ていると、著しい長考をしたり、マナーとしてどうなのかと感じる声かけをしたりするチームは散見されるので、その気持ちは分からなくはないです。ですが、そうであればその対処方法は声かけ規制ではないと思います。

まず、札合わせの長考を禁止したいなら、競技規程細則の16条にあるとおり、読手を「必要以上に待たせてはならない」ので、審判長判断で一定の時間が経ったら有無を言わさずに読唱を始めるなどの対処をすべきでしょう。既に審判長にはその権限が与えられているのです。その運用基準についても、例えば「札の整理終了後原則1分以内に送ること。制限時間のカウントを開始する場合は審判が明確に指示」といった形にすれば公平ではないでしょうか。その方が、対象が曖昧な声かけ規制をするよりも審判・選手の双方にとって好ましいと思います。

また、威迫的な声かけをしていると判断したのであれば、まさに競技規程細則27条の「示威牽制等不適切な言動」として対処すれば良いはずです。団体戦で応援が許容されていても、不適切な言動が禁止されることには変わりありません。その枠内で何が「不適切な言動」なのかの議論を重ねるべきであって、選手にとっても審判にとっても負担が大きい大声禁止のような乱暴な規制をすべきではないでしょう。


ということで、通知の中でも問題と感じた点についての個人の意見を書いてみました(この通知、他にも突っ込みどころはいくつもありますが)。団体戦の声かけについては色々と意見も割れるところです。もしご意見・ご指摘があればコメントいただけると嬉しいです。

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