競技かるたの作戦・大差をつける意味はあるのか問題
前回の投稿で、大会で勝ち抜くには大差をつけようとしてはいけないと書きました。関連する話として、今日は大差をつけることの意義について書いてみようと思います。
自分よりも下位の級の相手と練習するときなどに大差をつけて勝つことを目標にする人は多いのではないかと思いますが、その課題設定は適切でしょうか。
大差をつけるには特殊技術が必要
はじめに、大差をつける試合運びがどんなものなのかを説明しましょう。ここで想定しているのは、いつも通り取っていたら結果的に大差になるパターン(下位の級の選手相手に10枚前後の差をつけて勝つときはこのパターンが多いと思います)ではなく、最初から15枚以上の大差をつけるために飛ばす試合運びのことです。
ここで重要なのは、15枚差や20枚差をつけて勝つ試合では5枚差や10枚差で勝つ試合とは違う技術が要求されることです。なぜなら、5枚差や10枚差で勝つときは一定数の札を相手に取らせる余裕があるのに対して、15枚以上の差をつけるためには相手に取らせる札を10枚以下にする必要があり、そのためには場にある札の大半を制さなければならないからです。
このため、大差をつける試合運びでは、分かれ札を両方取る技術(戻り手や渡り手)を使うことになりますし、抜け札や反応遅れの札を極力作らない暗記や狙いも必要になります。また、大半の札を取って大差をつけるには試合開始直後からリードを広げて相手を突き放す必要があります。このため、一時的なスパートではなく、試合全体を通じたハイペースの取りの継続も要求されます。
対照的に、自分と同位~やや格上の相手と取るときは、欲張って手を広げても取れる札の枚数は簡単には増えません。むしろ、自分が取る計算にしている札の取りこぼしを減らす(=取りの強度を上げる)ことを優先した方が試合運びが安定します。
このように、大差をつける試合運びと通常の試合運びは取りかたが大きく変わってくるのです。特に、いつもは取る札を絞って試合を進めるタイプの選手の場合は、大差をつけようとするときは試合運びが大きく変わることが多いです。
大会で大差をつけるべき場面は少ない
そもそもの問題として、かるたの大会では、大差をつけるべき場面はほとんどないのです。個人戦の大会は級別なので自分と実力が近い相手が大半です。このため大差をつける余裕がある試合はあまりありません。実力差のない相手と取っているときに欲張るとミスが出るリスクが増えるので、大差勝ちを狙うと結果的には勝率が下がってしまうことが多いです。
もちろん、同級でも実力差がある相手と当たる可能性もないわけではないのですが、事前情報でもなければ実力差があると気が付くのは試合がある程度進んだ後でしょう。最初から大差勝ちを狙って飛ばせることは現実的にはほとんどありません。また、前の記事でも書いたとおり、大差をつけようとして飛ばすと暗記負担が大きくなってしまうので連戦が厳しくなってしまいます。
ですから、個人戦の大会で上位に入るためには、(接戦で消耗することを避けるために)10枚差をつける試合運びが求められることはあっても、15枚差や20枚差をつける試合運びをすべき場面はありません。試合の入り口では慎重なかるたをして、差が開き始めた辺りで一気にたたみ掛けて差を付けて勝つような試合運びがおすすめですし、良い結果が出ることが多いです。
大差をつける練習の意味
では、練習で大差をつけようとするのはどうでしょう。
練習相手が少ないと勝敗が固定しがちです。B級1人、C級1人、D級2人・・という練習環境ではB級の選手が負けることは少ないでしょう。実力の近い練習相手がいない環境で練習方法に悩んでいる人は少なくないと思います。
こういったときに大差をつける練習をする人がいます。5枚差で勝ったら次は10枚差、10枚差で勝ったら次は15枚差を・・と目標を上げていき、最終的には25枚差のパーフェクトゲームを目指すという発想です。
ですが、この課題設定は実力向上につながりにくいと思います。「練習のための練習」になりやすいからです。
自分より実力の劣る相手との試合は終始スピードで上回る展開になることが多いです。このような相手に大差をつけるには、分かれ札を両方取ったり取りこぼしを減らたりして札を遅く取られないことが一番効果的です。この技術は大会での好成績につながるようにも思えますが、実はそうではありません。理由は二つあります。一つは先ほど書いたように大会では大差をつける必要がないから、そして、もう一つは特殊技術ばかり練習してしまうために重要な基本技術が伸びないからです。
自分と近いレベルの相手との試合では、自分もまずまず速かったが相手にもっと速く札を取られてしまう、という場面が少なくありません。また、相手の速い動きに感じを消され、普段なら反応できるはずの札に反応できなくなってしまうこともあります。相手のレベルが上がるほど、札を取られるときは「自分が遅くて取れない」ではなく「相手が速くて取れない」ことが多くなるのです。ですから、「遅い札を減らす」練習ではなく、「相手が速くても取れる」練習をする必要があります。
ところが、実力差のある相手に大差をつけようとしていると、本来なら自分が速く取るべき札(例えば分かれ札の敵陣側)をおろそかにして、取れなくても仕方ない札(例えば分かれ札の自陣側)をそこそこの速さで取る練習をすることになってしまいます。つまり、「遅い札を減らす」ことに特化した練習してしまい、「相手が速くても取れる」練習にはなりません。
これでは、肝心の速く取るべき札の取りが甘くなってしまいます。その代わりに他の札を取れれば良いですが、そうはなりません。例えば分かれ札の自陣側などは「そこそこ」の反応では実力差のない相手からは取れないので、結果的に取れる札が減ってしまうのです。
また、このような取りを続けていると、練習で大差の試合ばかりしてしまい僅差の中~終盤を経験しないので、大会で僅差の試合をするとミスが出やすくなります。終盤に入る前に束で終わる試合ばかりしていると、終盤での暗記や狙いのバランスがつかめないのです。
このように、練習で大差をつける技術を習得しようとするのは、大会で使う基本技術の鍛錬の面ではかえってマイナスだと思います。枚数差を意識する練習をするのは個人的には反対です。
大差をつける意味がある場面
このように、大差をつけようとすることは、多くの場合にはあまり意味がないのですが、例外的に大差をつける意味がある場面もないわけではありませんので紹介します。
大差をつけるべき場面の一つは、団体戦で早めに1勝目を挙げたいときです。団体戦の場合は、早々に1勝することで相手の札合わせの選択肢を狭くして取りにくくしたり、他の相手にプレッシャーを掛けたりする効果があるので、敢えてハイペースで飛ばして大差勝ちを狙う作戦を採る意味はあると思います。
他には、同等~格上の選手に序盤でリードしたときがあります。試合展開や相手のタイプにもよりますが、相手がスピードのある終盤型の選手で、出札の片寄りや相手のミスで序盤に運良くリードできたときなどは、試合が長引くと終盤に逆転される可能性が高まります。このようなときは、序盤で飛ばしてリードを広げて一方的な展開で大差勝ちするほうが、数枚差の勝負をするよりも勝ちやすいことが多いです。特に攻めかるたの相手のときは序盤に大差をつけると相手の攻めを封じることができるので、多少無理をしてでも序盤に差をつける価値はあると思います。
大差をつけることが有効な場面は他にもあるかもしれませんが、私がぱっと思いつくのはこの2場面です。ただし、大差をつけようとしてうまくいかないときは、さっさと平常運転に切り替えて取った方が良いと思います。
以上です。この文章がもし参考になったなら、「スキ」したりコメントいただけると嬉しいです。
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