見出し画像

BYDを興した王伝福氏はイーロン・マスクと肩を並べるマルチ起業家、複数の事業への積極的な研究開発費の投入で更なる成長を狙う

2021年11月8日、BYDの株価は315元、CATLの株価は660.8元で、時価総額はそれぞれ9000億元(約15兆9600億円)、1兆5000億(約26兆6000億円)、株価収益率はそれぞれ277倍、154倍である。

一方で好調なテスラの時価総額は1兆2000億ドル(約9兆7000万億人民元/171兆9800億円)以上、株価収益率は354倍。新エネルギー車界隈のトップに位置する。BYDの株価収益率はテスラとCATLの間にあり、上を向けばまだ上昇の余地があり、下を見れば、すでに過大評価されているようだ。

BYD、CATLはいずれも、機関投資家の持ち株比率が厚いことがわかる。2021年9月末時点でCATLでは1489社が約2.7億株を保有し、株式市場価格は1,412億で、流通株式の13.2%を占めている。一方、BYDでは399機関が1.08億株を保有し、保有株式数は270億で、流通株式の9.4%を占めている。

王伝福氏は「マルチ起業家」

1995年、王伝福氏は会社を辞め、BYDを設立し、生産したニッケルカドミウム電池、リチウム電池は急速に国際市場に進出した。モトローラ、エリクソン、フィリップス、パナソニック、京セラ、UT・STARCOM、TCL、ZTEが次々と顧客となり、BYDの当時の栄冠は「電池王」だった。

BYDの電池事業は2002年7月、香港株式市場に上場した(コード:01211.HK)。

2003年1月、比亜迪は西安秦川の権益の77%を買収し(1年後に92%まで買い増し)、横暴にも自動車産業に進出した。電池王が車を作ることに、資本市場は誰も期待しておらず、メディアは「無知で恐れを知らない」「深浅をわきまえない」「暴挙」という表現を遠慮なく贈っている。

さらに驚くべきことに、BYDは車を造るのに苦労しているのと時を同じくして、携帯電話の組み立て事業を展開した。スクリーン、レンズモジュール、キーボード筐体の金型、ソフト回路基板などの製品を次々と発売し、ほぼすべての携帯電話の部品をカバーし、さらに携帯電話の組み立て事業を展開し、自らフォックスコンを名乗っている。

2006年、BYD F3は大ヒットし、売上高は50億元近くに達した。2007年に入り、F3の月あたり販売台数は1万台を突破するなど、猛烈な勢いで伸びている。この1年、発売された重要モデルには、ほかにミドル・ハイエンド市場向けのF6とデュアルモード電気自動車「F3DM」がある。後者はリン酸リチウム鉄を採用しており、航続距離はわずか100キロだが、中国初の量産型電気自動車で、新エネルギー車の先駆けとなった。

2007年10月、同社の携帯電話部品・組立事業は香港株式市場に上場した。名称は「比亜迪電子」(コード:00285.HK)で、70億香港ドルを調達した。

BYDは2008年、バフェットから投資を受けた(2020年末時点のバフェットの株式保有額は59億ドル。今年9月末時点の時価総額は約95億ドルで、中国機関399社の保有合計の2倍以上)。

2020年、BYDの売上高は前年比22.6%増の1566億元だった。その中で、自動車販売収入は840億元で、53.6%、携帯電話部品・組立業務の収入は600億元で、全体の38.3%を占めた。電池・太陽光発電事業の収入は121億で、全体の7.7%を占めた。

2021年H1、BYDの売上高は前年同期比50.2%増の909億だった。その中で、自動車販売収入は391億で、43.1%、携帯電話の部品と組立業務の収入は431億で、47.5%を占めた。電池・太陽光発電事業の収入は83億で、全体の9.1%を占めた。

画像1

注目を集めていた自動車事業(主に新エネルギー車)の売上高に占める割合が減少したことは、他の事業がより活況を呈していることを示している。2021年H1では、自動車事業の売上高成長への寄与率が23%だったのに対し、携帯電話部品・組立事業の寄与率は65%、充電池・太陽光発電事業の寄与率は12%に達した。

近視眼と怠惰にから当時BYDを見くびっていた連中は、現在はBYDの自動車事業ばかりに注目しており、BYDの傘下には自動車産業しかないかのように考えている。

「携帯電話の部品・組立事業」は比較的見過ごされがちだが、飛ぶ鳥を落とす勢いの新エネルギー車の売上高を上回るのには3つの理由がある。

1つ目は、現在の事業の中身が昔のものではなく、スマートウェアラブル、ドローン、ゲームハード、通信機器などの分野に拡大していること。

2つ目は、感染症が世界のサプライチェーンに与える影響の中で、BYDがより多くの市場シェアを獲得したこと。

3つ目は、新エネルギー車のデジタル化プロセスがスピードアップし、自動車スマートシステムの出荷量が安定的に増加しており、近い将来、ユーザーが自動車を運転するというよりも「携帯電話を運転する」と言った方が正しくなること。

同時に3つのことをするのは難しくないが、難しいのは3つすべてをうまくやることだ。自覚のある起業家がオールインと叫ぶのは、ある時期にはある単独の事業に集中することを指す。

一方でBYDは自動車、携帯電話部品、二次充電池事業のほか、動力用電池、半導体などの事業にも参入している。自動車を造ったりロケットを造ったりするイーロン・マスク氏と同様、王伝福氏は珍しい「マルチスレッド企業家」だ。

ガソリン車は使命を終えようとしている

2003年に西安秦川を買収した際、王伝福氏は「西安秦川は中国の電気自動車市場に進出する切り口とすることができる」と自らの意図を示していた。

ガソリン車の製造はBYDが電気自動車を製造するための「踏み台」だったが、なぜテスラは電気自動車を直接生産することができ、ガソリン車という「踏み台」が必要無かったのだろうか。それは米国の自動車産業は層が厚く、人材が多いからだ。テスラ工場はカリフォルニア州フリーモントにあり、敷地面積は1.5平方キロメートル近く。GMで20年営業した後に一度閉鎖され、累計100万台以上の乗用車を生産した。GMは1984年、トヨタとの合弁で古くから知られている「リーン生産」を導入し、累計約800万台以上の自動車を生産していたが、米国の自動車会社の衰退を背景に下落し倒産に追い込まれた。

2009年、テスラは累計1000万台近くの自動車を生産していたこの工場を4200万ドルで買い取った。そしてここで最初のモデルSが離陸した。自動車生産基地を「ただ拾い」するチャンスは、中国の「新勢力」は遭遇できないだろう。

テスラは自動車やIT分野の高級人材も拾いまくった。テスラが高級車業界から人材を募集するのは簡単だったが、マスク氏は非常に強い人格的魅力で、スティーブ・ジョブスが亡くなる前からもアップルから人を引き抜いている。Space Xが躍進した根本的な理由も、人材にある。

中国の状況はまったく異なり、1990年代末に合弁自動車工場が「土砂崩れ」を始めたばかりで、数少ない「高級人材」が合弁企業に集まって手厚い待遇を受けていた。

中国の自働車産業のレベルでは、民間企業がガソリン車を通過せずに直接、パワーポイントに基づいて新エネルギー車を作ることは、2020年でも非常に挑戦的だ。まして、これは2003年のことなのだ。

そこでBYDは、まずガソリン車から始め、研究開発チームとエンジニアリング技術者を育成し、完備した販売システムを構築するという、一見して最も「愚かな」道を選んだ。BYDは2019年末には520万台以上の車(ガソリン車、電気自動車を含む)を製造・販売しており、研究開発、生産、販売の面で豊富な経験を積んでおり、「電池王は自動車を知らない」と言う人はもういないだろう。

2021年に入り、中国国内の新エネルギー車は「爆発」し、BYDの単月販売台数は前年同期比97~302%増加し、トップとなった。

8月の新エネルギー車販売台数は6.1万台で、テスラと上汽通用五菱を抜き、世界新エネルギー車販売台数トップとなった。

10月には新エネルギー車8.1DMを1万台販売した。「漢」に続き、「ブレード電池(刀片電池)」が全シリーズの新エネルギー乗用車に搭載され、販売台数の増加を力強く後押しした。

画像2

近年、同社の新エネルギー車とガソリン車の販売台数はほぼ等しく、2020年には新エネルギー車の販売台数が48%を占めた。2021年、BYDの自動車業務構造に劇的な変化が生じた。新エネルギー車の販売台数は倍増し、一方でガソリン車の販売台数は急速に減少、最初の10ヶ月の新エネルギー車の販売台数は41万9千台に達し、全体の77.1%を占めた。うち、10月の新エネルギー車の販売台数は8万台を超え、全体の90%を占めた、ガソリン車は9000台弱と全体の10%にも満たない。

画像3

強調すべきは、BYDはDMプラグイン、EV電気の「両立」戦略を堅持しており、テスラと「新勢力」の追随を許さない優位性を持っているということだ。

2021年10月、BYD-DM車は38,771台を販売し、前年比444.1%増加して、世界ハイブリッド車市場を制覇した。一方でEV電気自動車の販売台数は前年同期比176.4%増の41,232台であった。何百万台ものガソリン車を製造して培った技術と経験がなければ、BYDのハイブリッドは「源なき水」だ。

DMプラグインは「移行ソリューション」だが、新型車の普及には大きなメリットがある。充電施設が完備されておらず、貯蔵エネルギー密度が画期的に進展する前は、DMプラグインは車の所有者に市内通勤で電気を使い、長距離で油を使うようにしていたため、「電動オヤジの世話」をする必要がなく、航続距離の不安もなかった。経済効果も相まって、DMプラグインが燃料車オーナーの乗り換えの第一選択となっている。

ハイブリッド車を買うために必要な「ガソリン車指標*」は一種の「特権」に相当し、誰も自ら特権を手放そうとはしない。これは、燃料車の所有者が乗り換えの際にEVよりもハイブリッドを好む大きな理由でもある。     (*訳注「ガソリン車指標(燃油车指标)」中国では燃料車と新エネ車で登録が違っており、新エネ車所持の登録をすると燃料車への再乗換えに手間取ることがある。)

ガソリン車はすでに使命を終えており、BYDは世界初のガソリン車を真に放棄する企業となる(注:ベンツ、フォルクスワーゲン、ボルボも何度もガソリン車に別れを告げると宣言している。彼らの主な方策はガソリン車に「48ボルト軽混合システム」を追加することで、これは燃料節約に限界があり、また価格が高すぎることが問題だ)。

なぜ純利益率が1~2%しかないのか。

1)自動車事業の粗利益率はテスラに負けていない

2014年以降、BYDの自動車事業の粗利益率は19~28%の間で変動しており、多くの年でテスラを上回っている。その差が最も大きかった2016年では、BYD、テスラの自動車販売における粗利益率はそれぞれ28.2%、23.6%だった、

2020年のBYDの粗利益率は25.2%で、わずかにテスラをリードした。

2021年H1、中国の新エネルギー車販売台数は121.5万台に達し、浸透率は9.4%に達した。BYDの新エネルギー車販売台数は前年同期比154.7%増、販売収入は22.1%増にとどまった。価格帯を下げて市場に投入した結果、粗利益率は20%を割り込んだが、市場シェアは12.7%に達した。

BYDの粗利益率の低下は動力用電池のコスト上昇と関連しているが、それでも19.5%という粗利益率は従来の自動車メーカーをはるかに上回っている。2021年H1の粗利益率は上汽が11.4%、一汽が8.6%だった。

画像4


携帯電話部品・組立事業の粗利益率はおおむね10~15%の間で変動し、工業富聯*を大幅に上回っている。2020年、BYDの携帯電話・組立業務の総利益は67億元、粗利益率は12.6%、工業富聯の粗利益率は8.4%だった。

2021年H1、BYDの携帯電話事業の売上高は前年同期比84.5%増加し、粗利益率は7.5%に低下した。同時期に、工業富聯の粗利益率は7.8%で、減少幅は大きくなかった。                           (*訳注「工業富聯」はFoxconnの上海市場上場会社。SH601138)

画像5

「老木発新芽」である二次充電池事業は、2020年に売上総利益24.4億、売上高粗利益率20.2%を記録した。

画像6

2014年、自動車事業の総利益が占める割合は60%を超えていた。2016年、自動車事業の総利益は160億で、貢献率は76%に達した、2019年、自動車業務の総利益額とシェアはそれぞれ下落し、それぞれ140億、67%だった。2020年の自動車事業の総利益は212億で、総利益総額の70%を占めている。

画像7

2)営業利益

下の図で、青の折れ線は総利益(率)、色の積み重ね柱は費用(率)を表し、青は色を水没させてこそ営業利益は浮上することができる。

農夫山泉*を振り返ってみると、青は深い海のようで、彩りは全く顔を出す機会が無かった。このような会社の第一はお金を稼ぐことだ。稼ぐ金額は多ければ多いほど良い。使っても使わなくてもいい費用はなるべく使わないようにする。                                          (*訳注:農夫山泉は中国の飲料水メーカー)

画像8

BYDは「株式上場」を続けてきたが、テスラのように「損失を出すべきなら損失を出す」ことを資本市場は許さず、さもなければとっくに上場廃止されていた。

そのため、BYDは「カラーの頂点はブルーはともに」を掲げ、総利益は主に企業の発展に使い、純利益はいつも、わずか1~2%の純利益率とした。

2020年の純利益は42.3億、純利益率は1.9%、2021年H1の純利益は11.7億で、純利益率はわずか0.4%である。

画像9

なお、研究開発費は当期の研究開発投資に等しいものではない。研究開発投資の成果(原価)の一部を資産計上して無形資産に組み込み、その後の各期の研究開発費に段階的に償却し、資産計上されていない研究開発投資は当期の研究開発費に計上されている。

2014年~2019年の研究開発投資の資産計上率は30~50%だった。例えば2019年には、84億の研究開発投資の33.2%が資産計上された。一方、2020年の86億の研究開発投資は12.8%しか資産計上されていない。資産計上率の違いが、営業利益に与える影響は30億近くもある!

2021年のH1研究開発投資は44.1億(2016年通年水準に近い)に達し、BYDはそのうち10.9億を資産計上し、資産計上率は12.8%にとどまった(2016年、2017年、2018年の資本化率はそれぞれ30%、40%、41.5%)。

BYDの売上高に占める研究開発投資の比率はおおむね4.4~6.6%の間で変動しているが、2021年のH1の研究開発投資は記録的だった。売上高に占める比率は4.9%に低下し、典型的な規模効果となっている。

画像10

2020年の85.6億元の研究開発投資のうち、41.5億は自動車事業(蔚来、小鵬、理想汽車の研究開発費はそれぞれ24.9億、17.3億、11億)、30.3億は携帯電話事業、13.7億は電池事業に充てられた。2021年のH1研究開発投資のうち、20億を自動車事業、14.9億を携帯電話事業、9.2億を電池事業に充てた。研究開発投資の配分からも、BYDは「一本足事業」ではないことが分かる。

研究開発投資は「中身」であり、決算上の営業利益は「メンツ」だ。世間体であるメンツを気にしない人はいないが、今のところBYDが気にしているのは「中身」なのだ。

<訳者メモ>電池事業からEV事業、そしてスマホ組立事業まで幅広く手掛けるBYD、実態はどのような企業なのか、今回の記事で少し理解が進みました。ウォーレン・バフェットも投資する中国企業であり、新エネルギー自動車の完成車とバッテリー、さらにエレクトロニクス組立の製造業を手掛けるBYDの将来性は非常に有望と考えています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?