一つ前の恋人③

別れることを伝えようと決心した途端に、不思議とお互いの休みが合わなくなった。当然、その間も連絡は続いており、

「オシャレなカフェ見つけたんで今度行きましょう」

だとか

「西嶋さんと同棲とかしてみたいな」

といった、これからの事を話してくる機会が増えたような気がした。会話を流すことに対しての罪悪感に耐えれなくなっていく。場所とタイミングを選んでいる場合ではない。


その子は大型ショッピングモールで働いていて、そこの駐車場で仕事終わり会うことにした。夜の9時に車の助手席のドアが空いた。とうとうその時がやってきてしまった。仕事をねぎらう言葉をお互いにかけた後、好きになれなかった事や今までの感謝伝えた。一ヶ月記念にプレゼントされたお揃いの財布の中に、お互いの財布の購入金額を入れてその子に渡した。その後、精一杯謝った。自分の声がとても震えている事に気づく。そういえば人を振るのは初めてだった。


別れの言葉を伝えてから3時間が経過し、次の日になってしまった。その間、その子は一言も喋らず、隣で固まったままだった。3時間の間何度もごめんと言った。これが、安易に人と付き合い気持ちを弄んだバツなのかもしれない。ただ、明日の仕事のことを考えるとお互いに今の時間が限界だったため、助手席からその子を下ろし、肩を貸してその子の車の中まで連れて行った。


その子の車が出てから帰ろうと思っていたが、一向にエンジンはかからなかった。1時をまわった。振った僕がしてあげられることはこれ以上ないのかもしれないし、するべきではないのかもしれない。「優しさ」と勘違いしていた「同情」を捨てて、僕はエンジンをかけ駐車場をあとにした。


帰り道に、その子から泣きながら電話が掛かってきた。とても安心した。そこでしっかりと話し、関係が終わることを認めてくれた。もし明日、また遅刻したとしても、それはすべて僕のせいだと心から思えた。

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