一つ前の恋人②

その子は電話が好きだった。暇なときはずっと電話をつないでおいて、夜になるとそのまま寝落ちするのが理想らしい。


僕はというと、メールは予定の確認くらいしか使わないし、電話は週一くらいが丁度いいと思っている。


その間をとって、週に三回くらいは電話をすることになった。その子は電話している最中に、ゲームをしたりアニメを見たりしていた。電話は空間を共有するためのもの、と認識しているようだった。


ある朝、目が覚め時計を見ると、出社しているはずの時間だった。スマホの充電がきれていて、アラームがならなかったようだ。前日、電話中に寝落ちしてしまったらしい。

「おも」

無意識にぼやいていた。



通勤中、走馬灯のようにその子とのエピソードが頭の中に流れてきて、それらがすべて重いエピソードに変換されていった。


金銭的に厳しいと言っておきながら、ご飯代を頑なに僕のぶんも払いたがる事


親戚に貰ったいちごをまるごとくれた事


バレンタインの日に、その子が自分で食べる様と言って買っていたゴディバのチョコを、車の後部座席にわざと忘れていった事


一ヶ月記念にポール・スミスの財布と手紙をプレゼントされた事



こんな気持ちでつくされ続けるのは、お互いに良くない。3ヶ月たったがその子を好きになる気配はなかった。今度会ったときに気持ちを伝えよう、と決心した。

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