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末期ガンの友

風の便りに、古い友がガンの末期で入院していると聞いた。
病院は都内だから、そんなに遠くはない。
年に一、二度の交わりしかしていなかったが、大学以来の友である。
見舞にでも行ってやっか・・・と腰を上げかけたが、ふと考えた。

 もし自分がガンの末期の時に、見舞客を素直に受け入れられるだろうか。
ましてや彼は体力自慢のスポーツマンである。
無精ひげを伸ばし、目元に黒いくまをつくってベッドに横たえている姿を、彼は喜んで見せるだろうか。
第一、 そんな彼の前でなんて話しかけたらいいのか・・・
一応明るく軽快さを装って「おお、君なら大丈夫だ。すぐに良くなるよ」と言うのもしらじらしい。
「天国は近いぞ。先に逝っているあいつとも会えるぞ」と言うのも神経がなさすぎる。
「この病気じゃ、仕方がないなぁ。いずれ俺もすぐ逝くから」と言うと、引導を渡すようで、決して喜ばないだろう。

 やはり見舞いに行くのはやめておこう。
今までの交わりに感謝した手紙を書くつもりでいるが、読む力があるだろうか。

庭の草むらの中で、秋の虫が鳴いている。
とぎれとぎれにチチチ・・・と鳴く。
死を迎えた人のはかなさと、生きる人のむなしさが、私の心を絞めつける。