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温もり感のある響きをワンルームに実現するコンパクトモデル

 JVCは日本の生活環境にマッチした木材を積極的にオーディオコンポーネントに取り入れていることで知られている。木材振動板を採用したイヤホンのWOODシリーズにせよ、据え置きスピーカーのWOOD CONEシリーズにせよ、多くのオーディオフィルから高く評価されてきた経緯がある。今回はその最新モデルEX-D6を紹介したい。本村英一がお届けする。

外観

 EX-D6の外観は自然美のある木目が美しいウッドキャビネットだ。金属感が少なく、生活空間に自然に馴染むデザインになっている。リラックスした音楽鑑賞空間の設計を考えたとき、温もり感のある外観は収まりが良く、リスニングルームの調和を乱すことがないだろう。もちろん日常空間においてもよく溶け込んでくれる秀逸なデザインだ。

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 ヘッドホン用の出力端子は背面にある。個人的には前面パネルにある方が好ましいので、この点は少し不満だ。

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デジタル心臓部

 EX-D6の内部コンポーネントは職人芸を感じさせるアナログな高級家具のような外観とは打って変わって、心臓部は現代的でデジタルだ。
 最新のAptX HDテクノロジーに対応したBluetoothオーディオ接続を搭載し、スマートフォンから音楽ファイルをリアルタイムで転送し再生することが出来る。USBメモリーから高品質のデジタル音源を直接読み込ませることも可能だ。DSD再生には対応しないが、最大24bit/192kHzのPCM再生に対応し、高品質なWAVファイルやflacファイルで高い解像度の音楽を忠実再生できる。

アナログ部設計

 こうした最新のデジタル環境が整えられた心臓部から音楽情報を受け取り、それを空間へと送り出すスピーカー出力部はどうだろうか。ここにこそVictorのこだわりが見られる部分だ。
 まず自慢のフルレンジ・ウッドコーン振動板が採用されたスピーカー部の後背には新開発の反射板を用いて上方への音の拡散を強化している。フルレンジスピーカーの弱点の一つが音の高さの拡がりに欠ける点にあるのは周知のことだが、VictorはEX-D6でその課題の克服に挑戦している。

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 筐体には硬く平滑で密度が高いために優秀な均一性を示し、剛性にも優れるMDF材を、配線には高品質なOFCケーブルを使用し、サウンド出力の純度を高めたという。

音質評価

 さて、御託はここまでにして、肝心の音を聴いてみよう。
 見た目からは小型の口径で少し貧弱に思えるかも知れないが、実際聴いてみるとワンルームは充分にカヴァーできるパワフルさのあるサウンドである。目線の高さに設置位置を合わせれば、高域でのびやかさが足りないと感じることもない。
 フルレンジ特有の高度な点音源性による一貫性の高い定位感は秀逸で、中域の音像は非常にクリアだ。ウッドコーン独特の角々しさのない、しなやかで引き締まった音は耳に自然に馴染む。とくにバイオリンのようなアナログ楽器の響きに自然な質感を感じさせることに成功している。
 もちろんフルレンジ特有の欠点はある。反射板構造により音の伸びやかさを増した効果は確かに感じられ、高さはかなり改善されているが、なお少し物足りなさを感じる。フルオーケストラの広さを表現するにはいま少し足りないだろう。また、中高域の分割振動による歪み感があり、曲によっては強い唸りを感じる。
 Victor独自の「HBS(ハイパー・ベース・サウンド)」の効果はどうだろうか。この機能は強力に低域を強化するものではない。音源の質感が自然に感じられるレベルでわずかに重低域が強化され、音の太さが増し、迫力感が出る。ただスピーカー口径が大きくないせいか、場合によっては中高域で少し歪み感が強くなる傾向も感じられた。私は常時OFFを推奨する。

拡張性

 EX-D6は完全に一体型として提供されるオーディオコンポである。そのため基本的に独立して機能する製品となっており、既存のオーディオチェーンに組み込んで使うタイプの製品ではない点には留意されたい。出力はヘッドホン用のステレオミニプラグのみであり、基本的に入力のみにしか対応しない。したがって外付けのスピーカーを使って音質をアップグレードするといった使い方は想定されていない。

まとめ

 欠点がない機種ではないが、デザインとサウンドの両面で高い完成度を実現しており、ウッドコーンサウンドのファンの裾野をさらに広げる機種であろう。難しい設定は必要なく、買ってすぐに音楽を楽しめる手頃なオールインワンエントリーモデルであり、初心者でも扱いやすい。高級家具のように居住空間に馴染むデザインも生活感を豊かにしてくれるであろう。それはプレミアムリッチなオーディオライフの水先案内人のようである。