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チョムスキーとの対話 14インタビュー当日

 当日前夜まで原稿を作っていて、翌朝プリントアウトしようとしたらなんとプリンターの調子がおかしくて印刷できない。四苦八苦しているところに子守役の夫が仕事から返ってきて、あちこちいじったあげくになんとか印刷してくれた。よりによってなんでまたこんなときに壊れるかなとうらめしく思うが、準備に余裕を持っていなかった私が悪いのだ。刷り上った原稿を見直す暇もなく、あわてて家を飛び出した。

 地下鉄のMITの最寄り駅、その名もケンダールMITに着いたのはインタビューの一時間前。車や電車は途中で遅れることがあるので、早めについてお昼を食べてからチョムスキーのオフィスに向かう心積もりだ。ところがチョムスキーのいるビルを地図で確認しながら探しているうちに、道に迷ってしまった。MITのキャンパスは広いうえにろくな標識が出ていないので、来るたびに道に迷う。時間に余裕があってよかったと思いながらせっせと歩いていると、春の陽気に汗ばんできた。路上に植えられた早咲きの桜がほころんで美しい。

 大回りをしてやっとたどりついた目的地は、ポップな色使いとシュールな造形で有名なMITの名物ビルだった。まるで赤塚不二夫のマンガに出てくるような奇天烈なデザインなので、私たちがバカボンパパのビルと呼んでいるところだ。最初からバカボンパパのビルと言ってくれればすぐに来られたのに、と言っても誰にもわからないな。

場所が確認できたところで、向かいのビルの階段に腰かけて用意してきたサンドイッチをほおばる。もうここまで来たらじたばたしても仕方がない。食べながら原稿に目を通し、インタビューの即席シミュレーションをする。私の英語が下手くそなのはもうどうにもならないから、相手が高齢者であることを考えて、ゆっくり、大きな声で話すことだけを心がけよう。

続く

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