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ソジャーナ・トゥルース 33「わたしは女ではないのか?」(フランセス・ケージ版)

「わたしは女ではないのか?」フランセス・ケージ版

 次のフランセス・デーナ・バーカー・ケージ版「わたしは女ではないのか?」は、1863年『女性の参政権の歴史』に収録された。
 女性の参政権を求めるリーダーたちは、灰色のワンピース姿で白いターバンの上に粗末なボンネットをかぶった、背が高く、ひどく痩せた黒人女性が女王の風格で教会の通路をゆったりと歩くのを見て身震いをした。彼女は説教壇の階段に腰を下ろした。

「奴隷廃止運動!」
「女性の権利と黒人!」
「言ったこっちゃない」
「黒んぼ、やれ!」

「止めてください、ケージ夫人。あの人に話させたら身の破滅です。国中の新聞が、私たちの運動と奴隷廃止やら黒人の問題やらをいっしょくたにしてしまう。そうしたら命取りですわ」臆病な会員が何人も震えながらやってきては請うた。
私は「その時が来たら様子を見ましょう」とだけ答えた。

 二日目、集会は本題に入った。メソジスト、バプティスト、英国国教会、長老教会、同仁教会の司祭が一堂に会して、発表に耳を傾けた。ある者は「優れた知性」を理由に、男性にだけ許された権利と特権を主張した。またある者は男女の不平等に「キリストが男性だから」という理由を掲げた。神が女性に平等な権利を望まれたなら、その意思を救世主の誕生と生と死を通じて示されただろう、というのだ。また、ほかの者は「われらが最初の母の罪」について、神学上の見解を述べた。

 当時、「会合で発言をする」ほど勇気のある女性はほとんどいなかった。立派な先生方が私たちを圧倒する間、中二階にいる若者や信徒席に座る男たちはニヤニヤしていた。私たち「きかん気な女ども」が狼狽する様子が、面白くてたまらないというふうだった。

 神経の細い友のうち何人かは顔色を失い、緊迫した空気は風雲急を告げた。と、それまでずっとうつむいて隅に座っていたソジャーナ・トゥルースがゆっくり立ち上がった。

「あの人に話させないで!」数人の声が私の耳に届いた。

ソジャーナは説教台のほうにゆっくり威厳をもって進むと、古いボンネットを足元に置いて、その雄弁な瞳を私に向けた。一階からも二階からも非難を表すシーッという声がした。私は立ち上がって「ソジャーナ・トゥルースです」と宣言し、静かにするよう聴衆に訴えた。

 騒いでいた聴衆はたちまち大人しくなり、すべての目がアマゾネスのようなソジャーナの身に注がれた。上背は180センチ近く、頭を高く掲げ、目は夢を見ているように教会の上の方を鋭く見つめていた。

 彼女が最初の一言を発すると、会場は水を打ったように静まり返った。その声は特に大きいわけではないが深く響き、会場の聴衆全員のみならず、扉や窓に密集している人びとの耳にもはっきりと届いた。

「さて、みなさん。こんな大騒ぎになっているということは、きっと何か悪いことが起きているにちがいない。南部の黒人と北部の女どもが権利とやらを求めているので、白人の男たちはすぐ困ったことになるだろう。でも、ここでみんなは一体なにについて話しているんだろう?」

「あそこの旦那さんによれば、女は馬車に乗る手伝いがいるし、溝があれば持ち上げて渡らせてやり、どこでも一番いい場所に座らせなければならん。でもわたしはだれも馬車に乗るのに手伝ってくれないし、水たまりがあっても知らんぷりだ。一番いい場所に案内されたことなんぞ一度もない!」

 ここで彼女は六尺豊かな体をすっくと伸ばし、雷のように轟く声で叫んだ。
「わたしゃ女ではないんですか? わたしを見なさい! この腕を!」(そうして、右腕の袖を肩までたくしあげて隆々たる筋肉を見せた。)

「わたしは畑を耕し、作付けをし、採り入れたものを納屋に収めてきた。どんな男衆にも負けないくらい働いてきた。でも、わたしゃ女ではないんですか? わたしは男と同じくらい働けるし、同じくらい食べることもできる(それだけの食べ物が手に入ればの話だが)。ムチ打ちにも耐えることができる! でもわたしゃ女ではないんですか? 13人もの子どもを産んだが、ほとんどが奴隷に売られて行った。母親の悲しみで泣き叫んだとき、聞いてくれたのはイエスさまだけだった! 一体、わたしが女ではないとでもいうんですか?」

 「それにほれ、頭の中のあれーー」(「知性」と、近くの誰かがささやいた)。「そう、その知性が、女の権利や黒人の権利となんの関係があるっていうんだ。わたしのコップが1パイントしか入らず、あんたのコップが1クオートなら、わたしの半分の大きさのコップくらい、一杯にさせないというのはずいぶん意地悪ではないですか?」そして彼女は太い指をさして、その主張をした牧師を鋭く見やった。聴衆はどっと沸き、歓声を上げた。

「それにあの黒い服を背の低い人は、キリストが女ではなかったから女は男と同じ権利を持つことができないと話しましたけどね。一体キリストさまは、どこから来なすったんですか!」

 どんな雷鳴も、歓喜する聴衆を彼女のよく響くすばらしい声ほど静めることはできなかっただろう。ソジャーナは両腕を広げ、その目は炎のように燃えさかっていた。彼女はさらに声を大きくして繰り返した。
「キリストさまはどこから来なすった? 神さまと女からだ! 男の出る幕はなかった!」小柄な男に対して、これ以上の反撃はなかった。

 彼女はもう一人の反論者に立ち向かい、母なるイブの弁護にまわった。ここで一言一句彼女の発言を書き記すことはできないが、その言葉は辛辣で機知に富み、荘厳でさえあった。息をつくたびに割れんばかりの拍手喝采が起きた。ソジャーナは最後にこう締めくくった。

「神さまがお造りになった最初の女に、ひとりで世界をさかさまにするような力があったとしたら、ここにいる女はみんな(と演壇から聴衆を見わたし)それをもとに戻して、もう一度きちんとできるに決まっているでしょうが! 女がそうしたいと言っているんだから、男たちはそうさせるべきだ!」
賛成の声がやっと静まると、ソジョーナは言った。
「話を聞いてくれたみなさんに、神のご加護がありますように。はい、ソジャーナばあさんの話はこれだけですよ」

33「わたしは女ではないのか?」(フランセス・ケージ版)了 



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