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チョムスキーとの対話 3それはレジストで始まった

*ここからがインタビュー後にまとめたレポートです。「だ・である」で書いた原稿をそのまま掲載していきます。

2007年9月

 『現代社会で起こったこと』の77ページと315ページに出てくる「レジスト」は、1967年にベトナム戦争の反対と兵役拒否活動を掲げて発足したNGOだ。発足時のスローガンは「不正な権力への挑戦を呼びかける」。設立後次第に活動の幅を広げ、アメリカ中で社会の改革を目指す小規模の活動グループに助成金を提供する団体として、現在までマサチューセッツで積極的な活動を続けている。

 チョムスキーが創設メンバーの一人だったという縁でレジストのことを知った私たち夫婦は、定期的にこの団体に寄付をしてきた。月一回送られてくるニュースレターには、レジストが助成金を出したグループの活動内容が掲載されている。小さな草の根団体がほとんどで、一つのグループに配られる助成金は数百ドルから数千ドルというわずかな金額だが、報告書を読んでいるとそれがどれだけ彼らの活動の助けになっているかがわかる。社会のためになにかしたいけれどどうしたらいいかわからないという私たちのような人間には、小口の寄付金をプールして全米の活動グループに有効に分配してくれるという、ありがたい団体なのだ。

  そんなある日、レジストの設立40周年記念パーティが開かれるという案内が届いた。『現代社会で起こったこと』の翻訳を始めて3ヶ月ほどが経っていた。日時は10月13日の7時半から11時まで。プログラムを見てみると、チョムスキーがゲストスピーカーの一人として招かれている。資金集めを兼ねているのでチケットは75ドルと高いが、チョムスキーの講演予定が事前にわかることは少ないので、これは絶好のチャンス。

  そういえば最後にチョムスキーの講演に行ったのはずいぶん前のことだ。しかし、よく考えるとこの日は日本から遊びに来ていた母が帰国する日。夫がニューヨークまで送りに行くので、その間私は娘と留守番しないといけない。ところがチラシを未練がましくながめている私を見て、「夕方には帰ってくるからなんとかなるよ」と夫が申し込んでくれた。

 数日後、レジストからチケットとプログラムが送られてきた。プログラムを見てみると、資金集めのオークションの案内が出ている。有志者から寄付された商品を競りにかけて、売り上げを全額レジストの活動資金に当てるという。出品アイテムはスポーツ自転車、マーサズ・ビンヤードの別荘に一週間滞在するバケーションパッケージ、手織りのスカーフ、著名アーチストによる風景画など、豊富な品揃えだ。しかし、私の目はモノや旅行ではない、あるアイテムに釘付けになった。「チョムスキーと政治か言語学について話す(45分間)」。推定価格は「プライスレス」だ。

 入札はオンラインのオークションサイトで受け付けるというので早速サイトをチェックすると、開始価格は50ドル。すでにいくつかのビッドがついていて、120ドルに値上がりしている。締め切りまで一ヶ月ほどあるから、当然最終価格はこれより高くなるだろうが、どうやら私にも手が出せない金額ではない。オークションはオンライン版がパーティの数日前に締め切られたあと、パーティ会場でサイレント・オークションとして継続するという。パーティに出られない人は指値で不在者入札もできる仕組みだ。このとき私はまだ興味本位で画面をながめていたのだが、もしオークションに参加したくなったらパーティですればいいという予感がどこかでしていた。

続く

(写真:レジストから送られてきたパーティ券とプレス・パケット、宣伝用のカード)

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