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世界文化遺産 国立西洋美術館へ

世界遺産は、世界に1,000件もあるんです。
いかにも世界遺産と誰もが認めるものもあれば、これがなぜ世界遺産?と思われるものも。むしろ後者の方が多いかもしれません。

国立西洋美術館も、そんな世界遺産のひとつでしょう。

上野駅から徒歩1分の場所にある世界文化遺産 国立西洋美術館へ行ってきました。


近代建築の巨匠 ル・コルビジェ

国立西洋美術館が登録されている世界遺産の名称は、「ル・コルビジェの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献」です。ル・コルビジェって?思われる方も多いかと思います。ル・コルビジェ氏はパリを拠点に活躍した近代建築家です。彼は「近代建築の五原則」や「モデゥロール」「ドミノ・システム」などの近代建築の基礎となる重要な概念を次々と打ち出し、過去の伝統的な建築から決別を図りました。その特徴がみられる建築物群はフランスやスイス、アルゼンチン、インド、ドイツ、ベルギー、日本の7か国に点在する17の資産で構成されています。

国立西洋美術館は、そのうちの一つということです。

このように国の境を超えて登録されている世界遺産は他にもあります。各国が協力してこの貴重な遺産を保護しているんですね。


世界遺産国立西洋美術館、ここが見どころ。

国立西洋美術館で見られるのは、近代建築五原則の一つ、ピロティです。

ピロティは、最近の建物では当たり前ように見られる建築技術。
1階部分の壁を取り除き、柱と床で建物を支えています。西洋建築では、従来は伝統的に壁によって建物を支えてきましたが、柱により床面を支える建築構造を推進しました。これによりデザインの自由が高まり、水平連続窓や自由な平面などが可能になりました。

国立西洋美術館のピロティ。現在では様々な建物で見られる構造ですが、建設当時はすごいことだったのです。

国立西洋美術館を正面から見ますと、1階部分にピロティがあることがわかります。建設当初はもうすこし奥までピロティが見えましたが、現在は空調等の関係で一部がガラス窓で覆われています。館内に入ると柱がみえますが、この場所は開館当初はピロティでした。

美術館の1階内部から。現在はガラス壁で仕切られていますが、以前はここも壁のないピロティだったそうです。

 西洋の建築は、ロマネスク建築、ゴシック、ルネサンス、バロック、ロココと続くのですが、いずれも壁が建物を支えるのに重視されてきました。それが、鉄筋コンクリート技術の進歩などもあり、ル・コルビジェの活躍もあり柱が中心になっていくわけです。そうすると、壁に大きな窓で採光ができるようになったのですね。
 しかし、これって日本では伝統的に行われてきた建築方法ですよね。柱が中心で、襖を外せば開放的な空間が広がります。世界には様々な文化があるってことが、世界遺産から学べるわけですね。

 国立西洋美術館は、昨年10月から4月までリニューアル工事が行われていました。工事が行われた場所は、前庭です。

改修工事前の前庭。植栽などが目立ちます。

 1959年に開館し、以後、何度か前庭は改変されてきました。2016年に世界文化遺産に登録された際、建設当時のル・コルビジェの設計意図が一部失われていると指摘されていました。上の写真は2020年に訪れたときのもの。前庭には植栽があり、美術館を囲む塀も重厚でした。

改修工事後の前庭。スッキリした感じがありますね。正門から入ると太いT地の導線があり、入口へ導いてくれます。

改修後の国立西洋美術館は、ル・コルビジェの設計意図に沿い、開放的で軽快は雰囲気を取り戻した感じがあります。美術館を取り囲む塀も鉄柵となり、外から美術館の姿が良く見えます。ル・コルビジェは美術館を中心にした複合的な空間に発展することを考えていたそうです。正門から入ると、やや太いTの目地があることがわかります。これは導線としての役割を果たしています。この導線から国立西洋美術館を眺めるのも良いと思いませんか。ぜひ歩いてみてください。

では、国立西洋美術館へ入りましょう。


国立西洋美術館に入ります。

 前庭リニューアルに合わせた展示がありましたので、じっくり見学したいと思います。何気に今回の国立西洋美術訪問、絵画などの美術作品よりも美術館自体の建物に関することを見学した時間の方が長かったかもしれません(笑)。

世界遺産登録証です。
国立西洋美術館の模型。左側は断面が見られるようになっています。
断面です。免震構造が施されています。

 国立西洋美術館の歴史や今回の前庭リニューアル工事の説明が詳しく展示されていました。とても勉強になり面白かったです。

 前庭は改変されたのを、また当初の姿へ戻されています。免震構造は世界遺産に登録される前の1996年に施されました。この時、すでに文化的価値の高さが評価されていたため、建物自体には手を加えず、地下の基礎部分のみに免震装置が取り付けられました。同じように、姫路城や法隆寺など、他の文化遺産もその文化的価値を損なわないように修繕されています。
 世界遺産には、真正性が求められます。形状や意匠、素材、用途、機能などがそれぞれの文化的背景の独自性や伝統を継承していなければなりません。これは、歴史的建造物の保存と修復に関する1964年のヴェネツィア憲章の考えが反映されています。世界遺産に登録されると、このように大切に守られていきます。


自然光を取り入れる大きな窓。展示室は渦巻状に増設できる無限成長美術館という概念で作られました。

 国立西洋美術館は、松方コレクションを展示するために作られました。モネ、マネやゴッホ、セザンヌなど、著明な画家の作品を見ることができます。素晴らしい展示ですね。常設展では松方コレクションを中心に展示されているわけですが、今後展示数が増えたときには美術館を渦巻状に拡張できるように考えられたんだそうです。
 現在ある新刊は、裏側に増設された形になっています。新館の窓からは本館の後ろ姿を眺めることができました。この景色はこれで建物と木々と調和しているように見えます。ピロティの柱の効果もあるのでしょうか。

新館から見る国立西洋美術館本館。

 新館では、ル・コルビジェの絵画が展示されていました。幾何学的な表現方法が用いられた作品が並びます。ル・コルビジェが目指した芸術、人間と機械、感情と合理性、そして芸術と科学の調和を目指したものなのだそうです。じっくり見ていると、それが伝わってくるようでした。

新館で開催されている小企画展「調和に向かって ル・コルビジェ芸術の第二次マシン・エイジ」


おわりに

 前回の世界遺産検定の記事に続き、新宿から気軽に行ける世界遺産、国立西洋美術館について書いてみました。私も数回しか訪れたことは無いのですが、今回のリニューアルで開館当時の姿を取り戻したことはとても素晴らしいことだと思い、じっくり見学させていただきました。
 なぜ世界遺産に登録されたのか?が、この記事で少しでもわかっていただけたでしょうか。芸術作品を鑑賞すると共に、この建築物のすばらしさにも気づいていただけると嬉しいですね。夏休みの自由研究にも世界遺産、いかがでしょう。

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