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食べるを読む:もの食う人びと

海外旅行は苦手だけれど旅行記は好きな片山です。辺見庸の「もの食う人びと」は、世界のいろんな場所に出向き、食べることを通して世界を見るという本。というと、バラエティ番組みたいですが、ただの旅行記ではないのは、出向いた先がバングラデシュの難民キャンプ、内戦中のユーゴスラビア、チェルノブイリ、ソマリア、択捉など、といったところからもわかると思います。
 戦争など大きな事件の陰にいる人々を、大上段にではなく同じ目線で、食べるという行為を通して描く。この誰でも日々やっている行為を通すと現地の感覚がくっきりと浮かび上がります。そして、自分がいかに無知であったか思い知らされる。
 印象に残ったのはベトナムを一昼夜かけて北から南へ結ぶ特急の描写でした。車内の人間の息遣いと汗くささを感じつつ、経済の発展とともに人々が変わりゆく予感を夜明けの車内のうごめきと合わせて体感できます。旅行記を読んで、こういう光景はもうないだろうな、と別れにも似た寂しさを感じるのが旅行記の味わいです。

 ●片山大

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