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いつかのこと

いつかのこと

植物園ではたらく
友人に
アポなしで会ってみようと思ったのだ。

そのときうちは愛知県に住んでいたけれど
その人がはたらいていたのは大阪府。

大阪に行く理由はいくつかあったから、
タイミングを合わせて、
あえて、会おうという連絡はせずに、
その日、その人がはたらく
植物園に電車で向かったのだ。

******

植物園に着くと、

思った以上に建物は大きく、
この中であの人にちゃんと会えるのか、
ドキドキした。

外の広場でとりあえず座って、
一応、「来ているよ」とメールを打ってみたりして。
仕事中だったら見てないよな、と思ったり。

そもそも、今日はお休みの日かもしれない。
とりあえず、
その人がはたらいている植物園が
どういうところなのか,
うちは知りたかった。
切符を買って入ってみた。


サボテンの世話をしているって聞いたから、
サボテンのエリアに行ってみたりした。
きれいな花が咲いていたな。

あの人のこと探しながらも、
うちは植物園を愉しんでいた。
そういえば、自分ひとりで植物園にくるのは初めてかもしれない。

こうやって、誰かに会いに来ることには、
たいてい、初めての出来事がくっついている。
だから、誰かに会うということが好きなのかもしれない。

******

植物園の中では
結局あの人には会えなかった。
メールへの反応もないので、
やっぱり仕事中なのかもしれない。
諦めて植物園から出て、

外のベンチでぼーっとしてたら、
あの人が歩いているのをみつけた。

あの人は、
植物の苗を管理している苗畑のようなところで
一つの苗畑から別の苗畑へ、移動するところだった。

当然ながら、
うちの方には気がつかない様子なので、
「すみません」と声をかけてみた。

*****

そのひとと夕食を一緒にすることになって、
電車にのった。

「お客さんに道を聞かれたのかと思った。」

と、面白げにその人は話した。
なぜか、よく人に道を聞かれるのだそうだ。

たしかに、
うちが声をかけたときのその人の反応は、
園客に道を聞かれたときのものだった。
まだこちらが誰か判っていないようだった。

うちが名乗ると、
笑顔になって、
「えっ、なんでおるん?」

終業時間になったら会う約束をして、
うちは近くの公園に出かけて時間をつぶした。

******

どこでたべるかは、
歩きながら考えることにした。
でもなかなか決まらなかった。

結局、
お店の構えから判断して
適当なお店に入ることになって

向かい合わせに座った。
そのときの会話はもうほとんど覚えていないけれど、

大学という場所に
行きたいけど行けていないその人と
行ったけれど面白いと思えないうちとが
お互い、学ぶことや仕事することについて

真剣に言葉を探しながら話し合ったことは
覚えている。

うちは、
その人の、話すときに決してふざけないところ
自分を含めて、誰のこともばかにしないところが好きだった。
そういう、何かの価値を落とすような発言を
しないひとだった。

******

どこに泊まるの?
ときかれて

夜行バスで広島まで行くと伝えた。
梅田のバスターミナルまで行くと言ったら、
道が同じだからとついてきてくれた。

そして、
駅の改札の内側に立って、
バスターミナルまでついていくと
その人は言った。

でも、うちは
いいよ、と断った。
「ついて来ても、何も変わらないよ」
言いながら、残念に感じている。
自分のこと。


ああ、こんな時
ハグができたらなぁ。

他にこの気持の処し方もなく、
握手をした。

「いろんな優しさにふれてください…」
とつぶやくようにその人は言った。

手を振りながら、
駅の改札をはさんで
次第に遠ざかった。

21歳の夏のこと。

29years old,5.23,Mizuki

※画像はMichal DziekonskiによるPixabayから

絵を描くのは楽しいですが、 やる気になるのは難しいです。 書くことも。 あなたが読んで、見てくださることが 背中を押してくれています。 いつもありがとう。