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白線

大型車

大型トラックの運転手が、
カーブなどするときに
中央線をはみ出して運転できるのは、
その特性に応じて
そのような動きが許されているからだと、

大型自動車免許を取ってきたその人は言った。

3分間スピーチ。
専門学校の朝礼で。

うちは、その言葉がずっと忘れられない。

いろんなミュージシャンや起業家たちを見るたびに、
そしてその人達の人並み外れた経験を語り聴くたびに、
うちはこの大型車の話を思い出す。

”大型車の運転手が、高い位置にある席で
余裕を持って対向車線や曲がり角の向こうを
見渡せるからこそ
カーブするときに反対車線へのはみ出しが
許容されるように

人も、
遠くまで見渡せる人、
大局を見ることのできる人には、

中央線、白線、常識、可視不可視のルール
といった

はみ出してはならないと
俗に言われる境界からの逸脱が
許されているのかな、と思いました。”

とその人は語っていた。

ああ、そうだろうな。
と思ったのだ。

大勢の人を乗せるバスも
多くの荷物を運ぶ大型トラックも、
多くのものを乗せる。

運ぶものが多いと、
小回りは効かない。
前もって準備して、
逸脱も計算に入れて進まなければ、
事故に遭うかもしれないし
遭わせるかもいれない。

その場合、
きれいに収めることよりも
むしろ
逸脱を覚悟することのほうが
大事だったりする。

俗にいう常識が正解だとは限らない。
線が見えているのなら、
その直感に従うのも道かもしれない。

白線。それが
はみ出してはならないとされる線
だとしても

例外はある。
そうなんにでも、
例外がある。


五月の蠅


音楽について
このことを深く納得した
体験が
うちにはある。




音楽は、そもそも
逸脱的な性質を持っている。

radwimpsの野田さんが書いた曲に、
こんな歌がある。

「五月の蠅」。

もし倫理とか
言葉のルールに厳しい人が
「五月の蠅」の歌詞だけを
紙面上で見たら、
曲を聴かないうちに、
抗議文を送りだしそうな歌詞にも思える。

でもそうならないのは
(あるいはそういう人もいたかもしれないが)
それで野田さんが何か不利益をこうむったり
訴えられたりしないのは、

そこに悪気がないことが、
曲を聴くとなんとなくわかるからだ。
うちはあの曲は
美しさを含んでいると感じる。
歌詞のまがまがしさとは裏腹に
透き通ったまなざしを感じるのだ。

侮りたくない。
簡単に切って捨ててしまいたくない味があった。

字面での単純な肯定ではなく、
もっと微妙な仕方で
頷くことになる。

歌詞の内容だけに目を向けさせない
センスがあってこそ、
初めてあのような歌が書け、
そして発表できたんだと思う。
真似しようとして
できることではないだろうな。



ギターを弾く場所


ここまでが野田さんの話。
ここからはうちと、うちの知人の話


うちはギターを弾くのだけれど、
この島にきて浜辺で弾けるようになるまで
ずっとギターを弾く場所に困ってた。
街には、堂々とギターを弾ける場所なんてないように思えたし、
部屋でこっそり弾いてみたら、
お隣さんから苦情が来た。

けれど、
うちの知人は違った。

おなじ街に暮らし、
通りに出てギターのケースを広げ、
演奏しては日に6000円は稼いでいた。
いわゆる無名だけれど、
通りすがる人の心を引き付ける何かが
その人の音楽にはあったのだ。

部屋においても同じくで、
うちとその知人は、
たまたま
時期をずらして同じアパートに暮らしたのだが
苦情をもらったうちとは違い、

その人が暮らす隣の部屋の大学生は、
冬が終わって春が来て、
卒業してアパートを出ていくころには、
その知人の作曲した歌を隣室で口ずさんでいたという。
壁づたいに響いてきた歌を聞いて覚えたのだ。

表面では、
うちとその知人の行為は、
部屋でギターを鳴らして歌うという
「逸脱」だ。

ただ、その本質が違ったのだろう。
見えていることも、
カーブへの入り方も、
準備も違ったのだろう。

一方は隣人にとって、ただの騒音になり、
一方は心の隅に残る思い出になったのだ。

有効な逸脱


歌は、
人の心に響いてこそ
ただの逸脱ではなくなる。

大型トラックの運転手が、
遠くを見れていればこそ、
カーブで
反対車線にはみ出せるように。

野田さんの曲が、
その向こうに遠い焦点を持っていればこそ
字面だけで拒否されないように。

投資だって学業だって、
なんだってそう。きっと。
恋愛やなんかだって同じかもしれない。

逸脱とその有効性について

考えていた
この夜。

そして今までずっと。

あの人の3分間のスピーチを聞いてからというもの。

29才  12.23  Mizuki




絵を描くのは楽しいですが、 やる気になるのは難しいです。 書くことも。 あなたが読んで、見てくださることが 背中を押してくれています。 いつもありがとう。