水槽の部屋 (夕立ち 5話)
↑このお話の続き
***
「いいよ」と応えた。
その子はコク、と頷いたあと、
心から安心したような顔をして、
ぺたりと床に座り込んだ。
よく見ると、震えている。
その子の肩に触れると、
とても冷たかった。
お風呂入る?と聞くと
またコク、と頷いた。
その子は真っ白なワンピースの着物を着ていた。
体にぴったり張り付いて脱ぐのが大変そうな。
脱ぐのを手伝ってあげようと思って手を伸ばすけれど、
どうすればいいのかわからない。
その子は察したのか
座ったままにじり寄ってきて、服のおなかのところを
ぎゅっとつかんだ。
(ここをつかんで、持ち上げるの)
声にならない言葉が聞こえた。
言われたとおりにすると、
その白くて長いワンピースは、
不思議なくらい
するっと脱げた。
外では雨が降っている。
黒い夜を
雨が降っている。
***
その子は最初以外、
一言もしゃべらなかった。
寝宿を頼まれたあのときの言葉も、
そういえば、声は出ていなかったかもしれない
心へ気持ちを
直接伝える方法を知っているのだ。
静寂と暗闇の中に、
水槽の光だけが浮き上がっていた。
雨音に囲まれた
この部屋は
まるで水槽の中のよう。
照らされて青く光る
その子の体は
魚みたいだった。
28.6.17,Mizuki
絵を描くのは楽しいですが、 やる気になるのは難しいです。 書くことも。 あなたが読んで、見てくださることが 背中を押してくれています。 いつもありがとう。