三つ子の魂
待っている。
この家に帰ってくる人を
待っている。
もう帰ってこないのかもしれない、なんて
不安。
「不安はないよ」なんて
三つ子の魂にすらあったものを
勝手になくしちゃってさ。
無理しちゃってさ。
柿の木に
オレンジの実がぶら下がっていても
しぶいし、
お父さんが皮をむいて干してくれなきゃ
食べられないし。
僕、このまま死んじゃうのかな。
土に還っちゃうのかな。
暗い闇に
引きずり込まれそうで
家の中を行ったり来たり。
動いていれば、
「まだ生きてる」って
少し遠のいていられる。
あの場所から。
「不安はないよ」なんて
三つ子の魂にすらあったものを
勝手になくしちゃってさ。
無理しちゃってさ。
家の中に、
誰か知らない人がいたらどうしよう。
家の中の
くらい場所が苦手。
押入れの中。
明かりをつける前の
トイレの前のあたり。
窓の外。
鏡の向こう側の闇。
側にいてほしい。
あの息づかいを聞きたい。
あの体温に触れたい。
「生きてる」って、
教えてほしい。
ちゃんと生きていますか。
突然倒れて静かになったりしていませんか。
しんとした家の中は、
不安で満ちていく。
息継ぎをするように
家の外に出て
他所の家の明かりを
通りから眺める。
楽しそうな食事時の声が聞こえる。
いいなあ。
じんわりと、目が熱く潤んで見えなくなる。
帰ってくるよね。
ちゃんと、
帰ってくるよね。
ノート「あ」p15
28才1月より
絵を描くのは楽しいですが、 やる気になるのは難しいです。 書くことも。 あなたが読んで、見てくださることが 背中を押してくれています。 いつもありがとう。