【観劇感想】『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage -Renegades of Female-

クラブeXにて、『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage -Renegades of Female-を観劇させて頂きました。



※以下ストーリーや演出のネタバレを含みます。


わたしはヒプステは現地でtrack.3だけ観劇したことがありますが、それ以降の作品は配信も含めて見ていませんでした。自分の観劇スタイル(というか、単に好み)に合わなかったなあというのが当時の本音で、今回4年ぶりの観劇になりました。

今回それでも足を運んだのは、亀田さんが描くオリジナルストーリーの中で、合歓ちゃんがどんな言葉を放つのか、どんなリリックを紡いでいるかを見たいと思ったからです。(正直に言うと原作の展開諸々には全肯定ではありませんが、辛い時に合歓ちゃんの歌うリリックに力を貰ってきたので、今でも好きです)

今回の観劇で色々と心持ちも変わるなどしたので、自分の記録も兼ねて書き残しておきます。

そんな訳で、まず脚本の話から。
以下ざっとしたあらすじです。
※結末のネタバレもあります。

第1回ディビジョン・ラップバトルの開催直前、言の葉党によって政権が掌握された頃。

行政監察局の碧棺合歓は、局長の勘解由小路無花果により、新人の天都己一愛の教育係に命じられる。
天真爛漫で元気な一愛に振り回される合歓。

一方、中王区内で「月の音」という革命組織のテロ行為が頻発する。率いるのはツクヨミという女性。月の音の捜査には邪答院仄仄率いる中王刑事局特殊部隊「言浚」が担当に当たることになる。

ある時、行政視察中の合歓は、一愛が離れたタイミングで月の音の襲撃に遭ってしまう。自らの正義を掲げ対抗するが、ツクヨミのリリックに苦しめられる合歓。戻ってきた一愛を必死に庇う。

一愛は月の音を自分に追わせて欲しいと頼む。合歓の同行を条件に、市民を守るため月の音を2人で追い始める。

一方、合歓が襲撃にあったことで仄仄を責め立てる無花果。仄仄は「無花果が大切にしている部下」である合歓に興味を持ち、無花果の亡くなった妹に似ていると指摘する。

月の音を追って走り回る2人だが、毎日テロ活動は行われているのに手がかりひとつ掴めない。
こちらの情報が漏れているのではと考える2人の前に現れたのは仄仄だった。「調子に乗ると痛い目にあうかも」と忠告する。
一愛はその場に現れ、かつ月の音事件の担当である仄仄こそがスパイなのではないかと考える。

合歓からの進言を受けた無花果は乙統女と共に仄仄に話を聞く。そこで明かされたのは月の音の真相だった。

「仄仄が誰かと会う約束をしているらしい」という一愛の情報を元に張り込む2人。合歓は帰るように言うが一愛は聞かない。お互いに意地を張り合い、折れない自分を「末っ子なもんで」という一愛。兄と姉がいたが、大好きで自慢の存在だった兄は昨年病気で亡くなったという。合歓も粗野で粗暴で大嫌いな兄が居ると口にするが、そこで記憶にノイズが走る。

兄は「殺されたようなもの」と打ち明ける一愛。前政権にいた将来有望な政治家だった兄は、男というだけでその未来を奪われた。自分はその兄のために戦っているという。

兄の名前は、天都己一月。
月の音は彼の妹であるツクヨミと一愛を筆頭に、言の葉党が追放した男たちの家族や恋人の女性で構成された革命組織だった。

スパイは自分だと明かす一愛。国崩しのために立ちはだかる月の音に「あなた達にこれ以上傷ついて欲しくない」と言う合歓。
ツクヨミが一斉攻撃を命じた時、マイクが停止する。現れたのは無花果と乙統女だった。

2人のリリックによりボロボロになる月の音。それでも立ち上がらんとする一愛。合歓は間に割って入り自身の言葉で一愛を止める。

こうして全てが片付いた。遅れてやってきた仄仄はツクヨミと一愛を連行しようとする。合歓は連れていかないで欲しいと頼み、無花果が行政監察局の不祥事として2人の身柄を引き受ける。1人になった仄仄は、月の音が意外と呆気なかったと零し、それよりも新しいおもちゃである合歓を見つけたと不敵に微笑む。

第1回ディビジョン・ラップバトルの予選表を見て話す無花果と乙統女。合歓について、重要な戦力としてだけでなく「この国の未来にとって必要不可欠な存在」だと話す。
乙統女は己が理想のため、愚かな者は言葉の力で排除することを再度掲げ、幕。

その時々で歌やラップが挟まるのですが、概ねこんな流れだったかなと思います。

多くの方が絶賛している事だと思うのですが、やはり脚本の巧みさとしては原作の余白を上手く突いて、「言の葉党に対して立ち上がる女たち」を描いたところだと思います。言の葉党が排斥した男たちの中に家族や恋人がいる女性たちの声をこのような形で拾い上げたこと。またその中心にいるツクヨミと一愛が非常に魅力的なキャラクターとして描かれていました。

そして私が目的として楽しみにしていたセリフの中でも、合歓ちゃんの口から聞けて嬉しかった言葉がいくつかあります。特に月の音との対決のさなかで放った言葉とリリックです。

「月の音とか言の葉とか、男とか女とかどうでもいい!私はあなたにただ太陽の下を歩いて欲しいだけ」
「私がこの世界を変えてみせるから
だからお願い、武器を下ろして
もうこれ以上誰も傷つかないで」

暴力という手段を嫌い、「守られるだけの自分」から独立した合歓ちゃん。誰かを守るためであっても、何かを成し遂げるためにも、そこで「暴力」を選んでしまったら傷つけられるものだけでなく、傷つける側も傷を負う。暴力によって双方が傷つくことが嫌だと叫ぶ合歓ちゃんを見て、私が惹かれた合歓ちゃんの力強さや優しさってこういうところなんだよなと再認識した気がします。

そして今回のラストで無花果さんと乙統女さまが言っていた、合歓ちゃんこそ「この国の未来にとって必要不可欠な存在」というセリフ。女性と男性の明確な対立構造があるヒプノシスマイクというコンテンツの中で、女も男も関係ないと言い放つ存在は作品の未来にとっての希望の光だと思います。(原作も彼女が信念に一貫性を持って歩んでいるところが見たいのもまた少し本音)本作の合歓ちゃんはマインドハックからの回復後、言の葉党を内部から正しく真の平和に導いてくれる未来が見えるような脚本でした。憎しみを持ちながらも自身の目的のために敵対組織に入っていた一愛の存在と彼女と過ごした時間は合歓ちゃんの未来に大きく影響すると思うからです。私の中で本ストーリーは原作とはまた切り離して考えてはいますが、キャラクターの「核」のような部分が大切に汲み取られて、それぞれの魅力を押し出したストーリーとして完成していた本作を見ることができて嬉しかったです。その中で仄仄がただ面白さだけを求めて楽しんでいたのも良かったです。

挿入曲もどれもすごく良くて耳に残るものばかりでした。ソロ曲はそれぞれに過去の苦味が感じられたり。仄仄さんは「かごめかごめ」の要素が含まれた曲で「おままごと」に通ずる子供っぽさが感じられて、提灯の演出とも相まってゾクゾクしました。
ツクヨミの歌は曲調が個人的に好みだったのと伸びやかな歌声が本当に素敵でした。一愛の歌声と重なった時もまた少し色が変わって、聞いていてすごく胸に迫って。この2人はお兄さんのことがただ大切な優しい姉妹なんですよね、2人にもこれ以上傷ついて欲しくないとわたしも作中何度も思いました。幸せになって欲しいな。まだ一愛のmy name is〜ソングはキャッチーなメロディーですごく耳に残るのですが、「あまつみいのり」で踏まれてたのが「ここで全てを燃やす命」なの、結末を知った今はすごく重くのしかかります。苦しい。

それと曲中で「女性のユニゾンが聞こえる」という部分で、その厚みこそこの世界における女性の立ち位置を表しているようで良かったです。中王区の中なので、当然女性の権利が認められていて、月の音にも声を上げる自由がある、みたいな。今回の敵対相手が女性であるが故の厄介さと相まって魅せ方が上手いなと思いました。

私は当初、今回のストーリーが公式から全く明かされていないのはプロモーションとして惜しいなと思っていました。多分公演中ダイジェスト動画などが出ないのはいつもの事だと思うのですが(違かったらごめんなさい)、これまでの作品でやってきたような「原作の余白に焦点を当てたストーリー」ということを打ち出すだけで見たいと感じる人は増えるんじゃないのかなと。でもこれは撮影可能動画のバズりを経た今はちょっと考えも変わっています。

あの1曲の撮可とSNSでの拡散は本当にプロモーションとして大成功な例だと思います。「演技」として本編の芝居パートをダイジェストで切り出すよりも、ライブパートのこの1曲に本作の強みである「エンタメ力」だとか「パフォーマンス力」みたいなものが全て詰まっていて、結果的に魅力を打ち出すには最適だったのかもしれません。ヒプマイやヒプステを知ってる知らない関係なく話題になっていましたし、観劇の間口も広がったという意味では今回のやり方がきっと正解だったのだろうなと思います。(それがクラブeXという距離感の近い会場だったのも、会員限定公演のみの撮可というのもまた)

あと中王区が舞台化される前からいつか絶対に見たいと楽しみにしていたのがナカサチさんの衣装です。実物を目にして泣きそうでした。個人個人の魅力が引き立つ美しいシルエットで。二次元的な装飾詰まっているのにかつ制服というバランスを兼ね備えていて。ライブパートでの激しいダンスの時にはその魅力を引き立てるような布の動きをしていて、衣装で作品を表現するとはこういう事なんだなと毎回新鮮に感動しています。生きてた〜〜。オリジナルのツクヨミと一愛の衣装も2人の個性と魅力がたっぷり詰まっていて、改めてナカサチさんの作る衣装が大好きだなと思いました。絶対にいつか衣装展示などで近くで拝見できる機会が欲しいです。(個人的にもうすぐ『この世界の片隅に』の観劇も控えているので、そちらも本当に楽しみにしております。)

最後に。観劇を終えてこうして長々と言葉にして気づくのは、track.3を観劇した当時のわたしは、自分の中の「演劇」という固定観念にヒプステを無理くり当てはめて、自分の好みと比較して避けていたのだろうなということです。あの時より価値観も視野も広がって大人になった今だからこそ、本作やこれまでの作品は「ヒプステ」というラップとダンスと音楽とお芝居から成る唯一無二のジャンルなんだろうなと咀嚼できました。自分の好きな演劇とはタイプが違かったとしても、確かにこれは「エンタメ」で、今回たくさんの力を貰ったことは間違いありません。今は劇場に足を運んで良かったなと思っています。

現在、2.5次元ミュージカルでのオールフィメールの作品は決して珍しい訳ではありませんが、やはりオールメール作品の集客は圧倒的です。でもその中でこうして女性客からも大きな支持を得て成功を打ち出したオールフィメールの作品が生まれて、2.5次元ミュージカル界が、ひいては演劇界が盛り上がっていることをすごく嬉しく思います。「演劇」という広い広い宇宙の中にも本当にタイプの違う作品が星の数ほどあるから、演劇って素敵ですね。今日もそれに尽きます。

熱く語っていたらいつもの如く長くなってしまいました。当日券もあるようなので、お時間のある方は是非劇場で体感していただきたいです。東京は15日まで、大阪は松下IMPホールにて25日〜28日です。

キャストの皆様が無事に千秋楽まで走り抜けられますように!

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