【観劇感想】Casual Meets Shakespeare 『MACBETH SC』〈コメディ〉
新宿村LIVEにて、Casual Meets Shakespeare 『MACBETH SC』〈コメディ〉を観劇させていただきました。
シリアスとどっちも見てからまとめて感想を書いた方がいいのかな、とも思いましたがひとまずコメディだけを拝見した新鮮な感想を残すつもりで先に書きたいと思います。全体の比較だったりまとめだったりはまたシリアスの観劇後に。
手垢のついた言葉ですが、もう本当に面白かったです。帰り道猛烈に「演劇が大好きだ〜!!!」と叫び回りたいくらいには素敵で楽しくて濃密な時間でした。 シェイクスピア作品と演劇への気持ちが猛烈に掻き立てられる2時間、劇場で受け取れたことを幸せに思います。
いきなり違う話から入ってしまいますが、皆様は光文社から出版されている「古典新訳文庫」シリーズはご存知でしょうか。古典作品を現代的で分かりやすい日本語に噛み砕いて翻訳されたシリーズなのですが、度々誤訳を指摘されたり、作品の持つ良さが失われていると批判的な目線も向けられています。
ただわたしは、このシリーズが大好きです。昔から読書は好きでしたが、古典作品への興味は特段強い訳ではありませんでした。ただ時代を経て評価され続けるには理由がありますし、そういった作品に触れて自分なりの考えを持ちたいという気持ちの中で背中を押してくれたのが本シリーズです。
ただもちろんこのシリーズで描かれているものが作品の全てだとは思っていません。噛み砕いた作品理解を持つために本シリーズを読んで、その後改めて原文に近い翻訳のバージョンを読むことを続けました。土台ができてからはそこで出版されていない作品も楽しく読めるようになり、結果的に古典の面白さを知ることができました。ただ崇高で難解だと思っていた古典の大きくハードルを下げて、こういう楽しみ方をしてもいいんだ!と間口になってくれたのが私にとっての「古典新訳文庫」シリーズです。
前置きが長くなりましたが、私にとってこれと同じ性質を持っているのが、CMSの上演です。CMSのコンセプトを初めて知った日、ずっとこういう上演が見たかった!と思いました。以下HPから引用です。
確かに原作のセリフの一言一句はたしかに美しく尊いものです。ですが作品の入口で一度挫けてしまえばその先の良さや魅力は永遠に感じられない。私達は作品が作られた当時を生きているわけではありません。作品が古典たる故のひとつには、描かれていることがなお現代でも通じるという超時代性があります。
わたしは自分自身の読書の経験からも、話の「核」さえ失われなければ古典作品への入口はもっとラフで良いと思ってきました。そしてその体現として現代と古典を繋いでくれているのがこのCMSであり、中でも特にコメディバージョンはシェイクスピア作品への0→1の機会を与えてくれる上演の形だと思っています。なにより今作の『マクベス』を経て、その力を改めて感じました。
というのも、本作はただずっと面白くて楽しくて、そこには古典を楽しむこと受け入れてくれる優しさがあります。実際に古典をよく読むようになってもなお、「高尚で難解」という意識は多少なりとも持ち合わせていました。読んでいてセリフの一言一句すべてを理解できないのは自分に学がないからか?と落ち込んだこともあります。ただ本作のコメディバージョンは、自分が原作を読みながらツッコんでいたことや思っていたことが舞台上で気持ちよく回収されていく、そんなスッキリとした感覚があり、自分が抱いた作品へのどんな感情も大きく受け止めてくれるような上演でした。
あまりにも噛み砕かれたマクベスから夫人への手紙に笑ったり、「ちょっと何言ってるか分からない」というダンカン王のセリフに安心したり。マクベスの「男の子だけ産むがいい」のセリフに対する夫人の「エッチーー‼️‼️‼️‼️」も良かった。時代が生んだセリフと分かっていても、今の感覚では苦笑いでしか聞けないセリフもある世の中、脚色のおかげで本当に楽しく観ることができました。何より史也さんとカンパニーの皆さんが作り上げた『マクベス』という作品への総ツッコミをその場で共有できた感じがすごくすごく幸せで。マクベスとマクダフの名前は、本当に似てる。
そこに現代的で笑えるネタが沢山差し込まれていたり、鯨井さん演じるマクベスの絶妙なツッコミがこれまた秀逸で。おすぎさんのマクベス夫人の最高に振り切ったコミカルな演技とのバランスも最高でしたし、赤澤さんバンクォーの「やーめーろよ」とか「はぁぁぁい」とかもすごく好きでした。物理法則としてはほんとにおかしいのにバンクォー亡き後ドナルベインがこの技使った時、胸熱になってしまって困りました。ああいう細かいのずるい。
3人の魔女にABCを振って1人目が「A Witch→Awich」とかになるのとか個人的にはめちゃくちゃ好きでした。何故か韓国にかぶれている夫人も可愛くて面白かった。ケンチャナ〜
この上演から『マクベス』を知ったらきっと原作を読みたくなるとも思いますし、このコミカルな上演のあちこちが作品を読む時の手助けにもなってくれるように思います。それもまた楽しいですよね。
そしてそんな楽しい中でも、作品の核は揺らがずそこにありました。あくまでずーーっと『マクベス』なのですごい。「きれいはきたない、きたないはきれい」喜劇は悲劇、悲劇は喜劇。楽しく滑稽なのにふと悲痛に見えてきたり、悲劇的な様子がどこがおかしく見えたり。その緩急と相まって気持ちがくるくると裏返りました。
倫理観と野心の狭間に揺れるマクベスの心理を感じとれるのもまた、わたしがまた「人」だからこそ。欲が出るから人であり、人であるから欲が出る。
同じ水槽の水も、アヒルが浮かぶ滑稽な場面もあれば、それは時に血を流す水となる。
こういった裏表はきっとシリアスを観ても感じる部分があるのかなと思います。楽しみです。
客席やバルコニー、2階を利用した演出も多くて、客席が森の一部になることが出来たのも良かったです。ただ上手の方のお席だと2階のお芝居は見切れが発生してしまい、良いシーンなだけに全員で共有できない寂しさもありました。でも本当に素敵な音響と照明と美術とお衣装と!洗練された中の美しさがとっても良かったです。なにより3人の魔女の歌は本当に耳に残ります。
初日の次の日、コメディ公演に妹を連れて行きました。普段演劇に触れない彼女にとっては人生初のシェイクスピア。どの俳優のことも知らず、史也さんの演出も、このキャパシティの劇場も初めて。そんな彼女から、終演後に「話が理解できたし、ずっと面白くて楽しかった」という言葉を聞いてすごく嬉しくなりました。わたしの言葉だけでは魅力を伝えきる手段として到底足りないと分かっているからこそ、上演を通して自分が魅力に思っているものを理解してもらえるこの瞬間はたまりません。
言葉通り“Casual Meets”という今回の小さな機会が、彼女のまた違った作品の出会いに繋がったり、巡り巡って大きな変化を生むかもしれない。人生を長い目で見たらほんの蝶の羽ばたき程度の数時間が、時に人生や価値観を大きく変えるから、演劇ってやっぱりどうしようもなく面白いです。
Casual Meets “Shakespeare”なのであれですが、わたしはロシア演劇作品も好きなので、例えばチェーホフの作品もこういうカジュアルな上演で間口が広がればなと思ったりしました。彼も悲劇と評される作品を自身では喜劇と言ってきたので、きっと相性もいいんじゃないかなあと。余談ですが。
なんだかまとまらずつらつらと書いてしまいましたが、次はシリアス!本当に楽しみです。題材ゆえ特に両パートで演じられている皆様はエネルギーも体力も削られる作品だとは思いますが、どうか最後まで駆け抜けられますように。
素敵な作品との一期一会に、改めて最大級の感謝を。
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