本気を感じるほんきの湯
昨年の秋に、SNSで配信されていた新聞記事が目に入りました。
「水道なく井戸を掘ったら硫黄臭 温泉ビジネス津別で始動」
(記事のタイトルを程よくはしょったら川柳に!)
記事によれば温泉を使った宅配ビジネスも始めたらしい。
冬のある日に未湯&ブランクがある温泉を再訪するためこのエリアを訪ねましたが、その際に時間を作って顔を出す予定を立てました。
といっても温泉施設ではなく個人宅のため、行ってもお会いできるとは限らず、どこの馬の骨か分からない人が訪ねてくるわけですから、お断りされるかもしれない…そんな不安を心の片隅に抱えながら呼び鈴を押します。
インターホン越しに自己紹介するとすぐにドアが開き、白髪のご婦人が朗らかな表情で出迎えてくださいました。小さな不安すら必要なかったと思うほどの温かい歓迎でした。
町外れの自然豊かな地区にあるそのお宅はもともと遠くから沢水を引いて水道として使っていましたが、そこから送水できなくなってしまったため自宅の敷地内で井戸を掘ることに。
そうして出てきた井戸水が硫黄のような匂いがすること・飲むとわずかな塩味があることから、「これは温泉では?」ということに。同じ理由で温泉分析に準じた成分分析をしたという話は稀に聞くのですが、この方はもっと先までいってしまいました。
温泉を掘削する場合、北海道環境審議会温泉部会により掘削の許可をもらう必要があります。動力揚湯の場合はポンプの設置にも許可が必要です。その際に、掘削時のデータに基づいてどれくらいの量の汲み上げが適正か審議されます。実際に温泉を使うにも許可が要ります。
すでに井戸を掘り終わっていた状態でしたが、それで手続きが簡略化されることはありません。それで道薬研スタッフの方の手ほどきを受けつつ、温泉掘削の申請から順に許可を取っていきました。
そういった基本的な申請に加え、温泉にガスが含まれている場合はそれを抜く装置を取り付けたうえで利用許可を得ることが必要です。温泉水を飲用に使う場合は浴用とは別途で許可を取る必要がありますが、飲用許可は取りにくいことで知られています。
そうやって保健所に何度も申請をする必要がありますが、それらを全て行ない、浴用・飲用の両方とも許可を取っておられたのです。本人曰く「こういう申請は初めてだったから楽しかった」と。
私もひとりで温泉施設を切り盛りしていたので、温泉の利用許可を申請した経験があり、それらの申請に手間とお金がかかることは承知しています。それだけに、温泉施設を作るわけでもないのにそこまでされたという所に思いの強さを感じました。
そのようにして完成した温泉棟を見せていただきました。中には小さなポンプ・貯湯槽・ガスセパレーターなどが見えます。
こちらは夏場にお茶会などのイベントで使われている旧宅。飲用の温泉は旧宅の台所に引かれています(訪問時は冬季だったため使用不可)。
簡単な温泉データはこちら。
源泉名 ほんき 永遠の湯
泉温11.0℃・湧出量毎分30リットル(動力揚湯)
pH8.0・電気伝導率0.26 S/m
溶存成分(ガス性のものを除く)1.979g/kg
泉質 ナトリウム−炭酸水素塩・塩化物冷鉱泉
・陽イオン ナトリウムイオン564.6mg (97.23mval%)
・陰イオン 炭酸水素イオン1038mg (70.41mval%)
塩化物イオン208.4mg (24.34mval%)
お風呂がないのに浴用許可をなぜ取ったのかというと、町内で新聞店を営む方が温泉水の配達事業を始めたのです。実はその方も急遽来てくださり、3人で今後どんな展開をしていけばよいかの会議状態に。ヒントは残してきましたので、何かしら形になってほしいと思います。
そしてもう1つ、行政サイドから新規起業に対する補助金が使えることを教えてもらい、申請や設備投資にかかる費用の一部をそこから捻出できたということを聞いてさらに驚きました。そういう情報をきちんと提供してくれる、行政が町民の方を向いている町って良いですね。
まだ新しいピカピカの温泉、ぜひ町民の方にいろいろな形で利用していただきたいです。今後も目が離せません。
温泉経営者だった経験を生かし、北海道の温泉をさらに盛り上げる活動をしていきたいと思っています。サポートしていただけたら嬉しいです!