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人気野湯の行方

北海道の道東にある「からまつの湯」。
昔から人気で、よく知られている野湯(野天風呂)でした。

利用者の死亡事故が起きたのが昨年11月のこと。
その後は別の意味でよく知られるようになってしまいました。

現在はバリケードが張られているようで、この野天風呂はこのまま閉鎖になるだろうと考えています。その理由を幾つか書いておこうと思います。

土地問題

からまつの湯がある場所は国有林の中です。

上記の記事の中で『(北海道森林管理局根釧東部森林)管理署は「適切に管理できる団体などがあれば、国有林貸し付け手続きを経て存続を検討できる」としている』と書かれていますが、これを「森林管理署はからまつの湯の存続に一定の理解を示している」と受け取る方がいるようです。

でも、それは大きな間違いです。正式な手続きを経て国有林を利用するということは、土地の使用料を毎年国に支払うということを意味します。つまり「適切に管理でき、手続きしてきちんと地代を払ってくれる団体などがあれば」貸しますよ、ということであり、それは国有林のどこでも変わりません。

これまでたっぷり時間があったにも関わらず、土地の使用問題が解決されていなかったということは、残念ながら愛好者の会にその状況を解決する能力がなかったということです。「温泉が出ているから、露天風呂があるから、みんながこの温泉に来るからこの土地はタダで勝手に使っていい」という論理は通用しませんし、そのことで国に苦言を言い放つのは筋違いです。
管理署側から見ればこれまでずっと違法建築・違法占拠の状況だったので、今回の事故はその状況をリセットする良い機会でした。

町が管理する?

上記の記事には『一部の愛好者は町に施設管理を求めている。これに対し中標津町は「費用や管理者責任を考えると、町による維持管理は難しい」としている』とも書かれています。確かに、町が管理すれば信頼感や安心感はグッと上がりますし、さまざまなメディアにも堂々と載せることができるようになりますが、町がそうするそ可能性は1%もありません。

これまで温泉施設として正式な手続きを経てこなかったということは、現在のルールに基づいて新たに入浴施設(公衆浴場)としての利用許可を取らなければいけないことを意味します。

その利用許可を取るためにしなければいけないことは以下の通り。
・男女別の脱衣室を設ける
・男女別の洗い場を設ける
・男女別の浴槽を設ける
・男女別のトイレを設ける
・夜間の適当な照明と、予備の照明
・換気設備のある脱衣場
・清掃に適した構造の脱衣場
・脱衣場にベビーベッドを設置する
・脱衣場に防寒対策をする
・脱衣場に衣類を保管できる設備を設ける
・脱衣場か浴室で水道(飲用水)を利用できるようにする
・浴室は外からも男女どちらの浴室からも見えないようにする
・男女の浴槽は独立させる(繋がっていてはいけない)
・洗面台を設置する
・浴槽の大きさに対応する広さの洗い場にする
・浴室は排水に便利な構造とする
・排水は適切に処理して排出する
・河川や湖沼に排水する場合は環境保全の処理をすること
・浴室の壁は床から1mまでの部分を水分が浸透しない材料で作る
・浴槽の縁は洗い場より5センチ以上高くする
・屋外に洗い場を設けない
・貯湯槽がある場合はお湯が60度以上あること
・上記が難しい場合は加温装置を設置する
・それも難しい場合は消毒装置を設置する
・脱衣場、浴室、トイレは毎日清掃、月1度消毒する
・浴槽のお湯は毎日完全換水
・上記が難しい場合でも1週間に1度以上換水
・保護者のいない幼老病者を入浴させない
・10歳以上の男女を混浴させない

上記すべてを満たした脱衣場や浴室を作り、保健所や消防などの許可を経てやっと営業できます。当然ながら公衆浴場としての営業許可にも温泉利用の届出にも申請料がかかりますし、ここの場合は土地だけでなく温泉の利用についても森林管理署からの許可が必要です。適切な管理者を配置することも必要で、管理者のための賃金も確保する必要があります。

これらを満たす施設を莫大な資金をかけて町が作る(その後の維持管理にも莫大な税金が投入される)ことはあり得ません。むしろ今は多くの市町村が既存の公営温泉の運営を諦めて売り払っている時代です。
また、中標津町の中心部には日帰り入浴できる温泉施設が複数あります。最も町外れに位置するからまつの湯を公衆浴場化する意味は全くありません。

何より上記の条件を満たしたからまつの湯は、全くの別物でこれまでの面影が一切ない、有料の温泉施設に変わってしまいます。「町が施設管理をすればいい」と言う人たちは、そんなからまつの湯を望んでいることになります。

それらを踏まえた上で新聞記事に載っている町長のコメントを読むと、素直な方はそれがルールに則した適切な答えだということが分かるはずです。

野湯の管理者?

からまつの湯にはもう一つネックになっている問題がありました。
それは以下の中標津町議会だよりでも触れられています。

https://www.nakashibetsu.jp/file/contents/384/605/NO133.pdf

それは「従来の愛好会の人たちによる女性の水着着用禁止という対応」という部分です。愛好会という管理者を自称する人たちがいました。私もその方がいるときに訪問したことがありますが、管理者としてのプライドを声高に熱弁しているのが駐車場まで聞こえていて、そのまま入らずに帰ったことがあります。

正式な手続きを経ず、勝手に「管理」する人は管理者とは言えません。自分の土地でも自分の施設でもない野湯で、自分たちの狭い価値観を訪れる人全員に押し付ける(でも責任は取らない)自称管理者たちと行政が友好的な関係を築けないのは明らかです。その関係性が「何か問題が起きたら素早く閉鎖する」という措置に繋がったのだろうと考えています。

特効薬がない問題

上記に書いた理由で、からまつの湯に関しては残念ながら2度と復活することはないだろうというのが個人的な見解です。そして、行政がその存在を公に認めていない(もしくは黙認状態の)野天風呂は遅かれ早かれ同じ道を辿るはずです。
そうなる前に手が打てれば良いのですが、これは一朝一夕ではどうにもならない問題なのです。

そして、事故に遭われた方のご冥福をお祈りするとともに、こういった事故がこの先に起きないよう願っています。

温泉経営者だった経験を生かし、北海道の温泉をさらに盛り上げる活動をしていきたいと思っています。サポートしていただけたら嬉しいです!