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地球のはなし 関東の耶馬溪

 8月初め頃は引きこもり状態だったのが、9月には出ずっぱりになった。出かけた先の1つは、上州草津温泉。この5年ほど、毎年、温泉の講演のために通っている。

 高崎で新幹線から在来の上越線に乗り換える。列車は各駅に停まりながら、かつては一面の桑畑だったという、広野の真ん中をゆるゆると北に向かう。

 右方には赤城の山々、左方には榛名の山々が連なる。快晴の空気は澄み切り、前方はるかに谷川連山も遠望されて、ゆったりとした心持である。

 渋川を過ぎると吾妻線に入る。上野発の特急よりも、各駅停車が断然良い。深い渓谷に沿って行くのだが、山間からは活火山・浅間の噴煙も見える。これぞローカル線といった風情のプラットホームには、御多分に漏れず名所案内の掲示板がある。

 去年の今ごろ、「吾妻渓谷 関東の耶馬溪…」に気付き、大分県人として誇らしい気分になった。

 この渓谷のことを、ダムの底に沈む運命にあることも含めて、紹介しようと思っていたので、紀行文のつもりで書き始めたら、世間が騒がしくなった。八ツ場ダムである。建設中止になれば、渓谷は残ることになり、悦ばしいと思う。

 ただし、長年にわたる大変な犠牲と努力を償うため、納税者である我われも責を負わねばならないのはもちろんである。
                           (2009.9.30)
※大分の耶馬溪はこちらをご覧下さい。

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。


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