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地球のはなし 信号と雑音

 半世紀以上も前、私が子供のころの情報収集手段は、雑誌、新聞、それにラジオぐらいであった。
 そうした手段には、自分たちにとって必要でない余計な情報、言い換えれば雑音が、必ずまぎれ込んでくる。典型的なのは、ラジオの雑音であった。記憶の片隅にかすかに残っている空襲警報の放送も、雑音の海の中にただよっていた。

 IT革命の時代と言われる現在の情報社会は、そうした雑音を除去する技術の発達があったればこそ実現したと言えるのであろう。

 自然科学研究でも、観測データの中から、目的とする信号をできるだけ精度よく引き出すため、まぎれ込んでくる雑音を除去しようとしてきた。ある面では、雑音除去の歴史でもあったという気がする。

 では雑音とはすべてが無意味な困りものなのかというと、必ずしもそうではない。そういう例に、最近出合った。別府で重力の観測を5年間にわたって、だいたい月に1回の割合で測定したのだが、雨が降ると重力がわずかに大きくなることが分ったのである。ニュートンの万有引力の法則によれば、雨が染み込んで地下の水の量が増えたことを意味する。

 重力は、地下の構造を調べるために測定するのが普通である。この目的のためには、雨の影響による変化は雑音でしかない。しかし、地下の水の量の変化を知るという観点からは、雑音どころか質の良い信号である。
                         (2001.7.28)

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。

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