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地球のはなし 航空管制ダウン点景

 3月1日の朝、羽田空港のリムジンバス待合室で、大分に帰る便を待っていたら、「管制システムに不具合が生じたので、すべての出発を中止している。8時10分ごろに回復の見込み」というアナウンスが流れた。しかし、時間が来ても、搭乗手続きが始まる気配はなく、アナウンスは「9時ごろには回復の見込み」から「回復の予定は立たない」と変わった。

 待合室は、次々に入ってくる乗客でいっぱいになった。イスの数は限られているから、ほとんどの人は立ったままである。

 見た目にはごった返して、携帯電話を声高に掛ける人もいるが、喧騒というほどではない。車座になって、サンドイッチなんかをつまむグループもあり、楽しんでいる風でさえある。以前にも同じようなことがあったと記憶を探ったら、60年近くも前のことだった。

 終戦直後(昭和20年の8月か9月、古い話だ)、京都の天橋立辺りから長崎に引き揚げる途中、列車を待って、どこかの駅で一夜を過ごした。おぼろげな記憶では、あふれんばかりの人だったが、復員兵が乾パンを配ったりして、なんとなく和気あいあいとしていた。もちろん、そんな雰囲気を4歳の子供が理解していたはずもなく、今になって、そう思うのである。

 ともかく、空港員の努力で、私たちの便が離陸したのは、ちょうど3時間遅れであった。今回のことは、コンピューター社会のもろさが露呈した事故と言えるのだろう。頼りになるのは、やはり人間である。
                            (2003.3.10)

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。


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