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地球のはなし あのですね

 定職が無くなってからの変化のひとつは、季節のメリハリ感が薄れたことだ。とはいえ、非常勤で講義を担当しているのと、孫たちが小学校に通うようになったおかげで、春4月は、やはり新シーズンの始まりを感じ、なんとなく開けた気分になる。

 加えて今春は、高校の同級生が花見を企画したので、うきうき感が増した。場所は、冗談めいているが、千葉県の佐倉。たまたま、そっちの方に用事ができたので、参加することにした。それにしても随分と遠方である。

 遠方というのは、私にとってというよりは、高校がある故郷・長崎から、という意味が強い。種を明かすと、首都圏に住んでいる同級生が多いのである。

 私たちは1959年に高校を卒業した。高度経済成長の真っただ中の社会に漕ぎ出したのである。多くの若者が大都会へと移動したが、私たちの年代はその中核にあって、大げさに言えば、良くも悪しくも現代日本の形成に深く関わってきた。

 そんな仲間が、引退しても故郷に帰ることはなく、1000キロ以上も離れた所で花見をしたことには、この半世紀の過程が濃縮されていると言えなくもない。

 集まった中には、卒業以来の者もいた。それでも、会えば一足飛びに昔に戻る。ちょっとかしこまった話題になったとき、長崎人がよく言う「あのですね」が口から飛び出していた。
                           (2008.5.21)

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。--

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