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地球のはなし 秋の初めの小旅行

 秋分の日の前日、県民アカデミア大学の講座のために佐伯に行った。このところ県内の移動には車を使っていたのだが、思うところがあってJRにした。

 前面に別府市街、背後にそびえる鶴見火山群。まさにパノラマ的風景の要にあるとも言える別府駅を出て、電車の車窓から見る快晴無風の別府湾は、やや靄がかかっているとはいえ、鏡のような水面には漁船がただよっていて、のどかという形容がふさわしい。

 大分を出ると、田んぼの稲は色づき、あぜ道は盛りの彼岸花で赤く染まっている。幸崎から佐賀関半島のつけ根を抜け、リアス式海岸を南下する沿線の山々の緑は、深くはあるがわずかに黄色を含んでいて、すでに秋の気配である。車窓から見る限り、ゴミもほとんど見当たらず、ほんとに美しい。

 講座を終えて、城山の麓を楼門から北に向かう「歴史と文学の道」を歩いた。武家屋敷の白い塀が続く道を、どこにも立ち寄らず、ただ歩いただけである。9月も末に近いのに30度を超えていたようで、汗だくにはなったが、手入れの行き届いた静かな道は、気持ちが良い。

 この小旅行で改めて感じたのは、風景の快さである。大分の風景が優れていることを、もっと誇ってよいのではないかと思う。しかし、この夏の大雨では、山林の荒廃があらわになった。不用意なゴミの投棄などによって、風景の劣化が進んでいるともいわれている。誇るためには、たゆむことのない風景の手入れが必要である。
                           (2005.10.6)

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。

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