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地球のはなし 野のイチゴ・ドクダミ

 私が別府に来た昭和40年代の初めごろ、研究所の敷地は、松と雑木の林に雑草が生い茂るヤブであった。そんなヤブを遊び場にしていた2人の娘は、まるでトトロの世界だった、と懐かしがる。

 私自身は、今になっては信じ難いことだが、イチゴやヤマブドウを集めて焼酎に漬け、ドクダミを採って干した。ついでに言うと、イチゴは粒の粗い酸っぱいのが良い。濃いピンクの透明な最高のリキュールができる。果肉が柔らかくて甘いクサイチゴは不適である。

 そんなことを思い出して、またやってみようかという気になった。ところが、できない。イチゴとヤマブドウは見当たらず、ドクダミは群落が縮小して、丈の低いのがまばらに生えているだけだ。

 家人によれば、当時200種あった草々のうち、アケビ・カワラケツメイ・ナデシコ・ユリ・フウロ・サギソウは見えず、ネジバナ・ツキミソウもほとんど無い。

 こうなった理由は、はっきりしている。
 研究所の周辺は、ビーコンプラザなどの公共施設が集中する、別府の中心地になった。そこが草ぼうぼうでは困る。伸びた草は刈る。だから、ある種の草は、花や実をつけるまで育つ余裕がない。ヤマブドウは消え去った。それでもなお、雑草の繁茂は見苦しい、としかられる。

 こうして、近代化の町からは、雑然とした多様な自然は消えてゆかざるを得ないのか。私人の私と公人の私は、その間の妥協点を見いだしづらい。
                          (1999.8.25)

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。


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