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温泉資源の保護は「点」から「線」へ、「面」から「三次元」へ

「温泉マップ」がバージョンアップしました。

 別府市では資源としての温泉を次の世代に継承するための活動として、
2016年から「せーので測ろう!別府市全域温泉一斉調査」を市民参加型で行っています。
この調査は、市の温泉課や別府温泉地球博物館が中心となり別府市民の方々や温泉愛好家など、普段から別府の温泉を利用している人に、温泉調査(泉温観測)を体験してもらい、温泉に科学の側面から触れていただくとともに、資源としての温泉を考えてもらえる機会を作る目的で行っています。
また、毎年実施することで、温泉資源の現況モニタリングとしての役割を担うことも目的の一つとしております。
 これまでも別府源泉の温度分布や温泉成分を年ごとに地図上に表示して観察することができましたが、今回、源泉別に観測結果を時系列グラフで表示できる機能を追加しました。
これにより源泉の温度や泉質の変化を観察することができます。


 2022年9月に別府市が進める「東洋のブルーラグーン」構想の調査費を盛り込んだ予算案が、資源の枯渇を心配する市民の声を反映して市議会観光建設水道委員会で否決されるなど温泉資源への関心が高まっています。

また「温泉が危ない!?」とのテレビ番組もあり別府の温泉資源は大丈夫なのかとの不安の声も上がっています。

「点」と「線」
 〇〇温泉の温度が下がった!××温泉の泉質が変わった!と声高に語る人もいますが、個々の温泉「点」の情報で別府温泉全体が衰退していると語ることはできません。
同様に時系列で水温の測定することで特定の温泉(源泉)が衰退してきているのかを見ることができますが、一つの泉源を継続的に観察する「線」の情報では温泉地全体の資源量を推定することはできません。

これまでも京都大学が数カ所の温泉を定点で観測する「線」のケースや大分県が別府の全源泉の湧出量や成分分析をした「面」のケースはありますが、「面(多くの測定点)」を時系列でデータを測定したデータを観測できるサイトは存在していませんでした。

(1)大分県温泉モニタリング(H27年度から)
※精緻な定点観測を行っているが計測地点が少ないため別府の温泉資源量を把握するにはデータが不足している。 
【継続的だが”点→線”の活動】

(2)別府市と大分県の共同温泉資源調査(平成30年度から令和2年度)
※調査結果から100年後の予測を提供するなど精緻で学術的な意義がある大規模な調査ではあるが、スポットの調査で経年推移はわからない。
【大規模で精緻な”面”の活動だが、一度きり】

(3)温泉一斉調査(別府市・別府温泉地球博物館など)
 平成30年(2016年)にスタートした『せーので測ろう!別府市全域一斉調査』は、行政・研究者・市民が一緒になって別府の温泉資源を確認する活動で、この中から最年少温泉マイスターが誕生するなど次世代への人的継承の兆しも芽生えて来ています。

「面」を「三次元」」で
 今回の改定で、多くの観測点「面」を時系列で「泉温」「溶存物質量」「イオン」などの推移などが観測できるようになりました。
個別の源泉単位ですが、「泉温」と「泉質」の変化を時系列で表示することで資源量の変化を見ることができます。
すこし手間が掛かりますが、エリアの源泉の変化に見ることで「三次元」で別府温泉の資源量の変化を推測できます。

例えば、
竹瓦温泉の男湯の「水温」「総溶存イオン量」「炭酸水素イオン」「ナトリュウムイオン」の推移をグラフ化してみる。

竹瓦温泉男湯を選択

下記のようなグラフで表示されます。

水温と総溶存イオン量を表示
炭酸水素イオンとナトリュウムイオンを表示

次にエリアの水温推移を見てみましょう。
例えば、別府温泉の竹瓦温泉男湯・永石温泉 南泉源・不老泉 南泉源・田の湯温泉 西泉源の「水温」を選択しグラフ化すると田の湯温泉と不老泉が低下傾向にあることがわかります。

竹瓦温泉・永石温泉
不老泉・田の湯温泉

このようにエリアの源泉の「水温」「成分(溶存物質量・イオン量)」をグラフ化することで資源量の変化を「三次元」で把握することができます。

『せーので測ろう!別府市全域一斉調査』のデータを活用して様々な視点での観察ができると思います。いろいろ試してみて下さい。

 温泉の枯渇減少は、温泉三要素の
  「湧出量(水位)」
  「泉質(化学成分濃度)」
  「泉温」           の順に変化が現われます。

  「湧出量」は短時間のうちに変化するのに対し、
  「泉質」と「泉温」の変化はゆっくり進行するので
                 長期にわたる観測が求められます。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             

まだ観測点の数や測定年数が少ないため別府温泉全体の資源量を表すことはできませんが、「観測点(源泉数)」が増え、「観測年数」が積み重なることで資源としての温泉の健康診断ができるようになると期待しています。

ホテル・旅館や温泉関連施設などのステークホルダー が定期的にデータを計測することになれば、”面”の密度が高まり、エリア毎の温泉資源の推移が精密に観測できるので、官民一体になった温泉資源保護の取組みができるようになるといいですね!

そして、なにより大切なことは多くの市民が温泉資源に関心を持ち、感覚ではなくデータで語るようになることだと考えています。
行政や温泉関係者はもとより、市民の多くの目がウォッチすることが外部の業者による乱開発への抑止力となり温泉資源の保護につながります。
そのためには、 科学的なデータに基づく議論を市民ができるように、温泉資源に関する基本的な知識を学ぶ啓発活動が必要であり、次世代を担う小中学生へ温泉資源保護の教育を行うシステムの構築も望まれます。
ブルーラグーン問題で高まった温泉資源を次の世代に継承して行こうという機運を一過性ものに終わらせないように活動の輪を広げていきたいものです。
感情的な反対ではなく科学的なデータに基づくディスカッションができる賢い別府市民の誕生を心から願いたいものです。

温泉マップに関するお問い合わせやご意見は下記にお願いします。


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