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地球のはなし わが家の周り

 3月初めから2週間余り留守をして、別府に帰って来たら、家の周りの様子が違っていた。白塀で囲まれた大邸宅のうっそうとした樹木はほとんど無くなって、ガランとした空間が広がり、その向こうに家並が出現し、その背後にビーコンプラザのグローバルタワーが弧を描いて中空に伸びあがっているのが、すぐそこに見える。

 大邸宅とは、別府の代表的な別荘建築とされた麻生別荘である。その敷地が住宅地として開発され、住民を含む少なからぬ人々がせめてもと願った、茶室や檜皮葺の門などの現地保存がかなわなくなったことは、報道されたとおりである。茶室は麻生家ゆかりの飯塚市に移築されるそうだから、最悪の事態は回避されたとすべきか。

 私が別府に来た昭和40年代の初め、この山水苑と呼ばれる一帯は森林のようだったのが、昭和50年代の終わり頃には、その大半が住宅地になり、私たちは平成になってまもなく引っ越してきた。みどり豊かでゆったりとして、気に入っていた環境は、今回のことで、また変わる。

 開発と環境保全の相克はいたるところに顔を出す。このショックからの回復を記憶の劣化だけに頼るのは、情けなく悲しい。素敵な住宅地に育つことを願う。4月8日、門もほぼ解体されたが、これも再生されることを期待したいものだ。

 駄弁をもうひとつ。我が家から見えるグローバルタワーは、横山光輝作『バビル2世』の怪鳥ロプロスの長い首を思わせる。この景観にも慣れなければ。
                           (2006.4.24)

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。--

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