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地球のはなし 割引乗船券

 ちょっとした事情があって、この3月、ほんとに久しぶりで関西汽船に乗った。久しぶりというのは、1995年1月17日早朝に兵庫県南部を襲った大地震以来、船を使うことを忘れていたからである。当初は神戸への上陸を控えていたにすぎなかったのだが、不思議なもので、いったん使わなくなると、その存在さえも忘れてしまうものらしい。

 事情というのは腰痛である。1月から2月にかけて、しばしば日帰りで飛行機や列車の旅行を続けていたら、何年か前と同じように、腰がこわ張ってしまって、いすに腰掛けるのが苦痛になった。横になって行きたい。それで、船を思い出したというわけだった。

 船に乗るときには、乗船名簿に姓名・住所に加えて年齢も書くことになっている。所定事項を書いて差し出したら、窓口のお嬢さんが、運転免許証をお持ちですかとにこやかに聞く。車じゃなくて人間だけですが、免許証が要るのですか…。私はけげんな表情をしたのだろう。いえ、お客様の年齢ですと20パーセントのシルバー割引きがありますので、それを確かめるためです。

 合点がいったけれども、僕はまだ現役だとも言いたくなった。しかし、年金の書類が来たりすることからみても、還暦とはそういう待遇への入り口であるには違いない。
 そう言えば、新聞の人事欄に紹介されている年齢は、ほとんどが私より年下になってしまっている。それやこれや、このところ、いや応なしに自分の年を思い知らされる機会が増えた。
                           (2001.5.22)

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。


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