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第37話 本当のプロダクト

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プロトレード 社にとっての、2000年10月は、奇妙な時間の流れのもと、ゆったりと進んで行きました。

楽天への合流に向け、お客様へのアナウンスの準備、システムの移管、会計、法務的な処理などなど。新規の開発や広告営業はストップ。

オフィスの退去も、もともとNetAgeがまとめて借りてくれていたフロアの、又貸しだったので、スムースでした。確か家具などの備品は、お隣のファインワインさんにお譲りしたと思います。

メンバーは、役員と社員だけでなく、アルバイトだった、種村さん、シラッキーの2名も、楽天の正社員として採用されることが決まりました。


10月23日
楽天の取締役会が開催され、正式にプロトレード 社の買収が発表されました。ウェブメディア中心に記事になりましたが、特に大きなニュースにはなりませんでした。こちらのファイルが、IR資料です。

交渉の結果の、買収金額は2.3億円。

投資家のNetAgeにとっては、1.15億円。7.6倍のリターン。
西川さんの思いつきでスタートした、EIR(Entrepreneur In Residence)案件、第一号の投資が成功した瞬間です。


そして、11月1日、
僕らは全員スーツを着て、楽天の11月入社の式に出席しました。

のちに、秘書の宮坂さんから、受付でずらっと、日経新聞を読んで座っていたプロトレード 軍が、意識高すぎてビビったと言われました。


これをもって、プロトレード という会社の、短くも濃厚な旅は、結末を迎えたことになります。

株式会社プロトレード の生涯は、わずか9ヶ月でした。


もう少し、時間の針を先に進めましょう。

僕らを買いたいと言ってくれた、2社の末路はこんな感じです。

クレイフィッシュ

僕らが楽天と合流した、11月に光通信との提携は解消したものの、業績下降は止まりませんでした。

翌2001年、松島社長の株が行方不明(一説によると良からぬところに流れた)となったことから、監査法人と、監査役5人が総辞任する事件が起き、松島社長は辞任(まあ、解任ですね)されてしまいました。

荒巻さんはエネルギーベンチャーのCOOに転じられてます。

組織としてはe-まちタウンと名前を変え、最終的には2013年に、上場廃止、光通信の完全子会社となりました。
ICG (Internet Capital Group)

バブルピーク時の株価から99.5%下落し、ジャンク中のジャンク会社となった後、事業会社ではなく単純なアセット管理会社に変貌。

2018年までに傘下B2B企業7社を売却した後、精算。

日本支社は2002年に人知れず閉鎖していました。

結果論ですが、もし楽天でなく、他社を選んでいたら、僕らのサービスも、雇用も、長く続かなかったでしょう。


一方、プロトレード のサービスは、楽天市場の店舗向けサービス、「楽天ビジネス」と名前を変え、多くの関係者の手でじっくりと育てていただきました。

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2015年に、残念ながらサービス終了してしまいましたが、最終的に、登録企業数は、なんと9万社に増えていたそうです。

2000年の買収の交渉の仕上げに、三木谷さんは、10万社くらいになるかもね!と話していたわけですが、ほとんど実現したと言えます。

15年の時を経て、僕の手を離れてから、知らない間に、プロトレード という名前の息子は、大きく育っていたというわけです。


プロトレード の仲間たちも、また、楽天のおかげで大きく羽ばたきました。

ザ・商売人の佐藤さんは、僕が社長室に早々に移動したこともあり、楽天ビジネスの部長として活躍。その後、外資系ネット企業の社長として成功し、今はUber Eatsの代表を務めてます。

技術担当役員の無頼派、岡田さんは、しばらく楽天のITインフラ関係を支えた後、フリーランスITコンサルタントとして独立。彼らしい道を歩んでます。

第一号社員の相川さんは、Greeの田中社長に引っ張られて移籍し、執行役員として、長年社長室として各種関係団体との渉外や特殊任務関係で頑張っています。

二号社員の小川くんは、楽天台湾の立ち上げに関わり、国際畑の人材へと育ったのち、元々の教育への思いから、元楽天副社長の本城さんが立ち上げた、学校づくりの事業に参画しています。

アルバイトの種村さんは、気がついたら三木谷さんの秘書となり、重要任務を長年務められました。

もう一人のアルバイト、シラッキーは、僕らの中で一番最後まで楽天で働き、モバイル、ポイント関係など、重要プロジェクトで活躍。


振り返ると、ものすごく仲が良いグループではなかったかも知れないけれども、この結果が示すように、個性的で、チカラのあるメンバーが集まっていたことは、間違いないと思います。

実はこのメンバーこそが、プロトレード という会社の、本当の「プロダクト」だったのかも知れません。

つづく


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