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映画「PERFECT DAYS」感想|試される価値観、中年の生き様をどう見る?

映画『PERFECT DAYS』が米アカデミー賞国際長編映画賞ノミネートされたらしい。

良い映画だったので納得。

『PERFECT DAYS』の感想

一人暮らしの古いアパート。
朝、ほうきを掃く音で目を覚まし、布団をたたんで歯を磨き、育てる植物に水をやる。仕事着に着替え、フィルムカメラを胸ポケットにしまい、車のキーと小銭を掴む。空を見上げて空気を感じ、缶コーヒーを買って車に乗り込む。一口飲んで音楽を選び、カセットテープのBGMとともに仕事場へ向かう。

黙々と仕事をこなし、風呂がないので銭湯へ。
馴染みの店で酒を呑み、帰って本を読みながら眠りにつく。本棚からは古本があふれている。

朝が来て、またいつものルーティーンを繰り返す。

この生活を理想とするべきか。
価値観を問われる映画だ。

東京の片隅で孤独に生きるトイレ清掃員・平山(役所広司)の生活を淡々と描いたこの作品。

朝から夜へ。雨から晴れへ。
ゆらめく木の葉からこぼれるわずかな光。

光と影のゆらめきと淡々とした日常の
わずかな心の揺らぎを描く。

THE TOKYO TOILETプロジェクトとは?

The
Tokyo
Toilet

との文字が背中に書かれたツナギを着て
毎朝のルーティーンで仕事に向かう。

仕事場は東京の公共トイレ。
どのトイレもデザイン性が高く個性的だ。

というのも、著名なデザイナーたちが渋谷の17ヶ所の公共トイレをデザインした「THE TOKYO TOILET」プロジェクトの一環で作られた映画とのこと。(ユニフォームはNIGO氏デザイン)

もともと短編の予定だったが、ヴェンダース監督の提案により大きく発展したのだとか。

『PERFECT DAYS』監督はドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース

「ユニクロ」の柳井康司氏が企画・プロデュース、監督にヴィム・ヴェンダースを迎えた。

この映画を観ようと思ったのはヴェンダース監督だから。静かで深みのある作品なんだろうと思った。

また、カンヌで役所広司が男優賞を受賞していたのを思い出した。

役所さんは間違いないので。

eiga.com

『PERFECT DAYS』ただ、毎日を繰り返す

同じ日々を繰り返す
同じようで、同じ日は二度とない

日常の中で空気を感じ、季節を味わいながら
その瞬間を丁寧に生きる

日日是好日、侘び寂び、禅、ミニマリスト
そんな言葉が浮かんだ

「好きな映画だ」と素直に思った。
今の自分の状態に、ピッタリ合った空気感だった。

この映画を観て今の自分はどう思うんだろうか?

そんなことを思いながらチケットを購入したが、平山の生き方、人との関わり方に自分の価値観がしっくりきているのを感じた。

「こんな生活は嫌だ」なんて思わなかった。
10年後、こんなふうに生きていたいと思った。


一方で、平山の生き方が美化され過ぎているという指摘もある。

東京の風呂なしボロアパートで暮らす独身の中年男性。仕事はトイレ清掃員。

はたから見れば

「こんな所に」
「こんな仕事」

そう見えるのは仕方がない。

平山の妹(麻生祐未)とその娘のニコ(中野有紗)の登場により、客観的な視点にやや引き戻される。

「視点によって自分自身が試される」とは川上未映子さんの指摘。

持てる人たちの「豊かな観察者」の視点から描かれた作品であるという見方もある。

持てる人たちが「平山さんの生活は、静かで満たされていて美しくて素晴らしい」というのは、そりゃ彼らは豊かな観察者だからそれはそう思うでしょうけれど、肉体労働をしていたり、相談できる人が誰もいないというような若い人たちがこの映画を観てどんな感想を持つのか、非常に興味があります。

川上未映子

家族がいて、子どもがいて
成長を見ていられるというのは

やっぱりなによりも幸せなことなのだ。

「この世界には、本当はたくさんの世界がある。つながっているように見えても、つながっていない世界がある。」

見えている世界だけがすべてじゃないけれど
見えないものを追い続けるより
自分の見えている世界を味わい、生きる。

それだけでいいのかもしれない。

『PERFECT DAYS』のMUSIC

music

この映画には、
平山が聴く音楽以外は流れない。

平山はかつて愛した音楽を
カセットテープで聴き続けている。

新しい音楽は基本的にない。
選曲はシナリオ作業中に行われた。

平山の心情を追うように、
彼はここで何を聴くだろう。

テープから流れてくる小さな偶然を
楽しむ彼のルーティンがここにある。

PERFECT DAYS公式サイト


音楽が素晴らしい映画なので、音源を探してみた。印象的なラストで流れるのはニーナ・シモンの『Feeling Good』

"私は私の人生を生きる"


アニマルズ『朝日のあたる家』


ヴェルヴェット・アンダーグラウンド『ペールブルーアイズ』


オーティス・レディング『ドック・オブ・ベイ』


ローリングストーンズ『めざめぬ街』


パティ・スミス『Redondo Beach』


ルー・リード『パーフェクト・デイ』


ヴァン・モリソン『ブラウン・アイド・ガール』


キンクス『サニー・アフタヌーン』


ニーナ・シモン「Feeling Good」

『Feeling Good』の歌詞

Birds flyin’ high, you know how I feel
Sun in the sky, you know how I feel
Breeze driftin’ on by, you know how I feel
It’s a new dawn, it’s a new day, it’s a new life for me
Yeah, it’s a new dawn, it’s a new day, it’s a new life for me, ooooooooh
And I’m feelin’ good

Fish in the sea, you know how I feel
River runnin’ free, you know how I feel
Blossom on the tree, you know how I feel
It’s a new dawn, it’s a new day, it’s a new life for me
And I’m feelin’ good

Dragonfly out in the sun, you know what I mean, don’t you know
Butterflies all havin’ fun, you know what I mean
Sleep in peace when day is done: that’s what I mean
And this old world is a new world and a bold world for me

Stars when you shine, you know how I feel
Scent of the pine, you know how I feel
Oh, freedom is mine, and I know how I feel
It’s a new dawn, it’s a new day, it’s a new life for me

And I’m feelin’… good

空の彼方を飛ぶ鳥たち、私の気持ちが分かるでしょ
照りつける太陽よ、分かるでしょ
やさしくそよいでくる風よ、分かるでしょ
夜が明けて、新しい一日が始まる、私は私の人生を生きる
最高の気分だわ

海を泳ぐ魚たちよ、聞こえている?
あてなく流れる川よ、分かってくれる?
木々に咲く花たちにも聞いてほしい
夜が明けて、新しい一日が始まる、私は私の人生を生きる
最高の気分だわ

照りつける太陽の下に飛んできたトンボよ、分かるでしょ
自由に飛び遊ぶ蝶たち、分かるでしょ
一日が終わる時、安心して眠れる場所、それが私の求めるもの
そしてこの古かった世界は、今や新しく生まれ変わったの
私にとって自由な世界に

星たちよ、輝くその時に、私の気持ちがわかるはず
松の香りよ、私の気持ちがわかるでしょ
そう、自由をやっと掴んだの、そしてこの気持ちをかみしめる
夜が明けて、新しい一日が始まる、私は私の人生を生きる

ずっとこの瞬間を待ってたの

『PERFECT DAYS』のBOOK

劇中、平山が読んでいる本はこちら。
"幸田文はもっと評価されるべき" とのこと

幸田文『木』

パトリシア・ハイスミス『11の物語』

フォークナー 野生の棕櫚(しゅろ)

棕櫚とは?

シュロ(棕梠)【学名:Trachycarpus fortunei】はヤシ科の植物で、雌雄異株の常緑高木です。 幹は直立しており約10メートルにも達します。 葉の大きさ約70~80センチで、形は丸く扇状に30~50に分裂しており、葉質は硬く強く、ほとんどが上半分の位置で折れ曲がって下方に垂れ下がっています。

海南特産家庭用品共同組合

『PERFECT DAYS』のPhotograph

平山が使用しているカメラはこちら。
フィルムはHORGA。

OLYMPUS μ(ミュー)

OLYMPUS公式

『PERFECT DAYS』のCAST

CASTは他に、柄本時生、田中泯、三浦友和など。

松居大悟

eiga.com

松居大悟監督もカメオ出演。
新作はタイトル、キャスト、原作をふせて発表したとか。

アオイヤマダ

アオイヤマダは今いちばん気になる女優。
23歳のダンサー、モデル、表現者。


あらすじ

東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らした。

Filmarks.com


KOMOREBI

“木漏れ日とは、風に揺れる木の葉が生み出す光と影の揺らめきを意味する日本語。それは一度だけ、その瞬間にだけ存在する”


変わらない毎日にあるわずかな木漏れ日。
こんどはこんど、いまはいま。

私たちの人生は「なにが必要か」ではなく「なにに満足するか」ということによって定義されているのです。

ヴィム・ヴェンダース

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