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映画『あんのこと』 河合優実が体現する希望と絶望

6月7日公開の映画『あんのこと』を観てきました。

監督は『SR サイタマノラッパー』『AI崩壊』などの入江悠。主演はクドカン脚本のドラマ『不適切にもほどがある!』で大ブレイクの新鋭女優・河合優実(かわいゆうみ)。

共演には佐藤二朗、稲垣吾郎など。佐藤二朗さんは相変わらずのクセつよ演技をみせていました。吾郎ちゃんの「情熱の薔薇」の熱唱もこの映画の見どころです。


『あんのこと』は実話に基づく物語

出典:映画『あんのこと』公式サイト

『あんのこと』は実話に基づく物語です。

入江悠監督が2020年6月の新聞記事から着想を得たと語っています。

2020年といえば新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が発令され、世の中は未曾有のコロナ禍にあった年でした。

この映画の主人公である少女・杏(あん)は、恵まれない家庭環境にありながら、信頼できる大人との出会いをきっかけにわずかな希望を持ち始めます。

しかし、コロナ禍による世の中の変化や大人たちの裏切りに翻弄され、再び絶望の世界へと堕ちていくのでした。

どんな内容の記事であったかは明確にはされていません。

しかし、ある特定の人物に起こった事件というだけではなく、杏のような少女があの時期には溢れていたのだと伝えた記事だったのではないでしょうか。

本作のコピー「彼女は、きっと、あなたのそばにいた」とは、先の見えない未来に絶望した若者たちが日本中に溢れていたことを意味しています。

河合優実の熱演が光る!体現した希望と絶望

出典:映画.com

なんといっても、注目の女優・河合優実の熱演が光る映画です。日本アカデミー賞など何かしらの賞を受賞するのではないでしょうか。

河合優実のプロフィール

生年月日:2000年12月19日
出身地:東京都
所属:鈍牛倶楽部
趣味:歌・ダンス・絵
サイズ:166cm B85 W60 H90

2019年2月にデビュー。山下智久主演のTBS系「インハンド」でテレビドラマ初出演。MBS「夢中さ、きみに。」がドラマ初レギュラー作品。

2020年の映画「佐々木、イン、マイマイン」では、苗村役を独特な雰囲気で演じました。

河合優実の全出演作品

【MOVIE】

2024年
「ルックバック」押山清高監督
「あんのこと」入江悠監督
「四月になれば彼女は」山田智和監督

2023年
「ひとりぼっちじゃない」伊藤ちひろ監督
「少女は卒業しない」中川駿監督

2022年
「線は、僕を描く」小泉徳宏監督
「百花」川村元気監督
「ある男」石川慶監督
「冬薔薇」阪本順治監督
「PLAN 75」早川千絵監督
「女子高生に殺されたい」城定秀夫監督
「ちょっと思い出しただけ」松居大悟監督
「愛なのに」城定秀夫監督

2021年
「偽りのないhappy end」松尾大輔監督
「サマーフィルムにのって」松本壮史監督
「由宇子の天秤」春本雄二郎監督

2020年
「アンダードッグ」武正晴監督
「佐々木、イン、マイマイン」内山拓也監督
「転がるビー玉」宇賀那健一監督
「透明の国」嵐あゆみ監督
「喜劇 愛妻物語」足立紳監督

2019年
「よどみなく、やまない」芝山健太監督

2021年の『由宇子の天秤』『サマーフィルムにのって』では、第43回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第64回ブルーリボン賞新人賞など新人賞を総ナメの活躍で注目を集めました。

【ドラマ】

2024年
「RoOT / ルート」TX
「不適切にもほどがある!」TBS

2023年
「神の子はつぶやく」 NHK
「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」NHKBSP

2022年
「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ シーズン2」NHK
「First Love 初恋」Netflix
「ワンナイト・モーニング」(第4話)WOWOW
「椅子」(第3話)WOWOW
「恋の病と野郎組 season2」(第5話)NTV
「17才の帝国」NHK

2021年
「生徒が人生をやり直せる学校」NTV
「さまよう刃」WOWOW
「ネメシス」(第4話)NTV
「アノニマス」(第8話)TX
「夢中さ、きみに。」MBS

2020年
「女子グルメバーガー部」EX
「トップナイフ」(第3話)NTV

2019年
「インハンド」(第4話)TBS
「1ページの恋」(第4話)AbemaTV

2024年の『不適切にもほどがある!』では、昭和の不良少女・小川純子を演じ大ブレイク。

出典:不適切にもほどがある!公式Instagram

河合優実がみせた希望の光

『あんのこと』で河合優実演じる主人公・杏は、貧困、ドラッグ、売春と抗えない運命に、希望はおろか絶望すら知らない少女です。

小学4年で不登校になり、ろくに義務教育も受けられず、難しい漢字は読み書きもできません。はじめて体を売ったのは12歳。相手は母親の紹介でした。

21歳で覚醒剤の常習犯として逮捕され、警察での取り調べで多々羅(佐藤二朗)と出会ったことにより、薬物を断つ "きっかけ" を与えられます。

ごく普通の表の世界を知らないまま育った少女は、きっかけを与えられたことで未来に希望を持ち始めます。

学校生活や介護の仕事、一人暮らし。同じ悩みをもつ仲間、自分を受け入れてくれる大人たち。学び、働き、生活する。初めて自分の人生を生きられる喜びを、河合優実が瑞々しく体現しています。そこにはたしかに、希望の光が射していました。

出典:映画.com

本作についてのインタビューでは、実在した女性がモデルになっていることに対し「"演じていい"と思いきれない部分がずっとあった」と語り、どんな気持ちで杏を演じたか?と問われた際には、「真剣でありたい」と最初から最後まで思っていたとコメントしています。

最初から最後まで思っていたのは、「真剣でありたい」ということでした。実在する「ハナさん」(仮名)という女性がモデルなんですが、ハナさんとお会いしたり、お話をしたりすることができないぶん、彼女の気持ちや思いは想像するしかないので、本当に全力で真剣に取り組まなきゃいけないし、この役と、ハナさんを自分が守る、絶対に守らなきゃって。そんな気持ちだったと思います。

hanako.tokyo

主人公・杏は何に絶望したのか?

結論からいうと、杏は自分自身に絶望してしまいました。

この物語の結末は暗く、杏のわずかな希望の光から絶望までの過程を描いています。

自身の恵まれない境遇により、ドラッグと売春に身を委ねる杏。自分ではどうすることもできない家庭環境については、ドラッグが逃げ道となっていました。

佐藤二朗演じる刑事・多々羅によれば、ドラッグ常習者は死を選ばないのだとか。なぜなら「死」よりもドラッグを欲するからです。

では、杏はなぜ絶望してしまったのでしょうか?

信頼していた人間の裏切り
コロナ禍により閉ざされた未来
愛すべき存在を失ったこと

わずかに見えていた希望の光が闇につつまれ、見えなくなってしまったから?

真っ暗に閉ざされた未来に絶望した?
希望が生まれたぶん、深い絶望となってしまった?

真実はわかりません。

実在した少女の心の内を知る術は、今はもうありません。

ただこの映画において杏が絶望したのは、自分ではどうすることもできない "抗えないもの" に対する絶望ではありませんでした。

自らが選び、積み上げてきたものを壊してしまったことに対する "自責の念" であったと語られます。

「自分ではどうすることもできないこと」よりも、「自分次第でどうにかできること」が叶えられなかった時にこそ、人はより深く絶望してしまうのかもしれません。

【まとめ】彼女は、きっと、あなたのそばにいた

逃げ道を失い、つなぎ止めるものもなく
生きる理由が見つからない

そのような状態に陥った少女が、たしかにそこに存在していたこと。

今もなお、そのような少女がいるということ。

あんのことをつなぎ止める誰か(何か)が必要だったのだと、この作品では伝えています。

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