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大爆発五秒前【ラゴン】

1966年8月7日に初放映されたウルトラマン第4話「大爆発五秒前」。このお話での主役は海底原人ラゴン、そしてまたもや原爆。ウルトラQ第24話「海底原人ラゴン」が初放映されたのが1966年5月15日(ちょうど54年前!)。それから3ヶ月も経たずに原爆の爆発の影響で巨大化して現れたラゴン。左腕に原爆(安全装置は外れている)をぶら下げながら何故か日本にやって来た。それも上陸したのは葉山マリーナ。葉山マリーナは家族で車に乗って行ったことがあるぞ。自分が知っている場所にラゴンが出たので本当に怖かった覚えもある。

ウルトラQに出てきたラゴンは人間より少し大きいくらいの大きさで、雌で、漁師に水揚げされてしまった自分の卵を取り戻すために岩根島に上陸する。島の暗い夜道を目だけ光らせて歩いてくるラゴンは本当に怖かった。巨大化したラゴンよりもこの2mくらいのラゴンの方が怖い。後に出て来るケロニアも同じような意味合いで怖い。島で大暴れしたラゴンだが、音楽を好む性質があり、最期は卵から孵化した小さなラゴンを胸に抱いて海に帰って行く。人間とラゴンがほんの一瞬だけ心(ラゴンにもあると思う)を通じ合わせたシーンはどんなハッピーエンドよりも心を揺さぶる。愛には可能性がある。それが唯一の希望かも知れない。

ラゴンを評して、半魚人だと云う向きもある。ちなみに半魚人と云う名称は日本だけで通じる。fishmanは漁師で、half-fishmanなんて言葉はない。アメリカの古い映画に出て来る半魚人は、ただcreatureと呼ばれる。ディズニー映画にも出て来る人魚は、上半身が人間で下半身が魚と云う形態で、merman(男性)やmermaid(女性)とちゃんと名前がある。シンガポールのマーライオンmerlionはライオン魚と云ったところか。merはフランス語で海のこと。イタリア語でmareで、スペイン語だとmar。漢字で海人と書くと急に沖縄っぽくなる。日本にも同じような形態の人魚がいて、その肉を食らうと不老不死が得られると云う伝説もあります。でも二足歩行の水棲生物と云うのは少ない。アマビエ(アマビコとの関係性は調査中)は三本足だし。

第90回アカデミー賞を受賞した2017年公開のアメリカ映画「シェイプ・オブ・ウォーター」に出て来る半魚人を見て「これはラゴンだ」と思った方はきっといらっしゃると思う。怪獣が大好きなギレルモ・デル・トロ監督が撮った作品だから間違いない。きっとラゴンを知っているはずだ。デル・トロ監督がインスパイアされた「大アマゾンの半魚人」よりもラゴンだと思う。こちらに出ていた半魚人は雄だけど。

話をウルトラマンに戻す。第4話の劇中に「白い航跡」と云う言葉が何度も出て来る。こうせき。コウセキ。それが船舶などが通過した後の海面に現れる波や泡のパターンであるとは随分と後で知ったけれど、白い航跡と云う言葉だけやけに怖ろしく感じた。白い航跡だけが海面にあるのはその海中をラゴンが移動しているから。その後、子供の僕は海水浴などに行くと沖の方を見て、白い航跡が現れていないか確認するようになった。だってラゴンが来たら怖いでしょ。

ラゴンがぶら下げている安全装置の外れた原爆は、衝撃を与えると20秒後に爆発することになっている。ウルトラマンとラゴンが格闘してその原爆がラゴンの身体から地面に落下。爆発まで20秒を知らせるランプが点灯。ウルトラマンはラゴンにスペシウム光線を浴びせて海へ落とし、残りの10秒ほどで原爆を宇宙空間に運び、そこで原爆が爆発。間一髪セーフ。ラゴンも怖いが原爆も怖かった。

第2話でバルタン星人が核実験で自分の星を破壊してしまったのと同じようなことを人類もしていたわけだ。これは再放送を何度か見ているうちに気が付いた。後に人災と云う言葉も知った。ウルトラマンには怪獣や宇宙人が色々と登場するが、人災もたくさん出て来る。最近も人災と云う言葉はとてもよく聞かれる。僕たち人類が持つ力はだんだんと強大になって、人災の大きさも途轍もないものになって来ているのはご存じの通り。僕たちはこれまでのことも、これからのことも、しっかり考えなければいけないと思う。

ラゴンが上陸した葉山マリーナに休暇で来ていたフジ隊員とホシノ少年が、偶然出会った少女、ミチコちゃん。ミチコちゃんのお母さんは、知り合いでも何でもないフジ隊員たちに娘の世話を押し付けて出かけてしまう。そんな時代だったかな。身勝手な親がいると云うのは今も昔もあまり変わらないけれど。

ミチコちゃんはフジ隊員に空腹を訴え、スパゲティーやサンドイッチを奢らせる作戦に成功する。そのシーンでミチコちゃんが食べていたスパゲティーミートソース(だと思うが)の麺がとても太い。名古屋のあんかけスパなどに使用される2.2mmとかのパスタよりも太いのではないか。もしかしたら当時はちゃんとしたパスタではなくソフト麺(若い人はご存じないだろう)的な代用品、スパゲティーとは名ばかりのなんちゃってスパなのではないかとも考えられる。ミチコちゃんが頬張っていたあのスパゲティーミートソースを、今、2020年に、僕が食べたい。心の底から食べたいと思うメニューの一つである。

昔の日本で主流だったのはスパゲティーではなく、マカロニ。その証拠に現在の日本パスタ協会は1972年に発足した当時は日本マカロニ協会と云う名称だったのをご存じか。そしてその名称は2002年まで受け継がれていたのだ。日本家庭のコンパクトな台所にマッチしていたのはマカロニの方だったと僕は考える。乾麺のスパゲティーを茹でるのには深い鍋と大量のお湯が必要だが、マカロニならさほど深くない鍋でも茹でることが出来るからだ。

イタリア産の西部劇映画をアメリカなどではスパゲッティー・ウエスタンと呼んでいたのに対して、日本だけマカロニ・ウエスタンであったのにも日本のマカロニ贔屓が顕著に表れている。ちなみにマカロニ・ウエスタンで人気を博したクリント・イーストウッドの映画俳優(端役)デビュー作品は「半魚人の逆襲」です。

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今回は話が逸れに逸れて長くなってしまった。逸れたついでにもう一つ。クレイジーケンバンドの3枚目のアルバム「ショック療法」に収録された「世界の半魚人」と云う僕の作品は、作った当初は「ラゴン」と云う曲名だった。名称使用の許可を取ったりするのがなかなか面倒だと聞いたので「ラゴン」と云う名前にはしなかったけれど、ベース担当の洞口くんは今でもこの曲を「ラゴン」と呼んでいる。

クレイジーケンバンドが20年ほど前に葉山海岸の海の家で演奏した時にこの「ラゴン」もセットリストに入っていた。前述したが巨大ラゴンが上陸したのが葉山マリーナ。ウルトラQのラゴンは葉山の南にある長井港や荒崎海岸で撮影されていた。あの葉山の海の家で「ラゴン」を演奏した時の、現実と非現実がない交ぜになって、過去も現在も混沌とした空気感を今でも思い出して深く感じ入ることがある。演奏をしながら、音楽が好きで、ウルトラが好きで、色々なものが大好きな自分で本当に良かったと感じたあのひとときを。

海の家でのクレイジーケンバンドのステージにちょっとだけ上がった(ちょうど「ラゴン」を演奏していた時だ)洞口くんの小さかった息子も、今は成人して立派な社会人となった。時は経つ。でもラゴンは変わらずに葉山辺りにいる。きっといるんだ。これからもずっと。

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