彼女は頭が

読み手の人生観があぶり出される100%の"嫌青春小説"ー「彼女は頭が悪いから」(姫野カオルコ)

桃山商事の清田さんにオススメされた姫野カオルコさんの「彼女は頭が悪いから」(文藝春秋)を拝読する。夜22時から読み始めて気づいたら朝の6時だった。こんなに夢中で小説を読み進めたのは一体いつぶりだろう。ラストがどうなるのかを知りながらも、ページをめくる手を止められなかった。

これは2016年に世間を騒がせた東大生による女子大生集団猥褻条件をもとに書かれた事件小説である。

この作品に惹き込まれるのは、決して読み心地が良いからでも、ストーリーがとっても素敵だからでも、めちゃくちゃ巧みな謎解きがあるからでも全くない。むしろ吐きたくなるような胸くそ悪さに満ちた小説だ。本を閉じたくなりながらも、こんな嫌な奴が、これからどう生きてどう動くんだろう、と言う興味(=いやらしい出歯亀根性)によって最後まで読むのをやめられない。

その理由としては、まず、一人一人の登場人物に関する情報量がものすごい事。もちろん主人公の生い立ちや、各登場人物のプロフィールなどは全てフィクションだが、フィクションと感じさせないほど各人を克明に描いている。この事件に関わった大勢の人間のそれぞれの人生を、ほんの少しも書き漏らさないぞ、という作者の鬼気迫る顔が眼に浮かぶようだ。400ページを超えるのも納得。登場人物の人生が、糸が絡まり合うようにして交差し、些細な出来事が互いに影響しあって「悲劇」へと繋がっていく。その様子を、ただただ最後まで見届けたい、という気持ちになる。

次に(というか、これが一番大きな理由だろうが)、1行ごとに行間からにじみ出るような、作者から登場人物に対するーーつまり、偏差値が自分たちよりも低い女子大生を馬鹿にし、「星座研究会」と名乗って女の子たちを性交目的でマンションの一室に誘い込むことを常習とし、その日はメンバーの一人に好意を寄せていた女の子に酒を無理やり飲ませて泥酔させた挙句、裸にして殴り蹴り、肛門に割り箸を刺し、彼女に馬乗りになってカップラーメンを体にかけた、その4人の東大生たちーー起訴され釈放された後も、一人は改名し、東大ブランドを前面に押し出して活動しているーーに対する、凄まじい怒り、軽蔑、嫌悪。それらが物語をドライブし、読者をアジテートし、結末へとページを繰る手を止めさせない。

本当に、こんな熱量の篭りまくった400ページを私は久々に読んだ。


ここから先は

1,847字

¥ 100

ありがとうございます。