マガジンのカバー画像

短編

3
運営しているクリエイター

2015年7月の記事一覧

短編小説 貝の棲み家

短編小説 貝の棲み家

 名を呼ばれた気がして目を覚ますと、夕立と呼ぶには遅い雨が軒を静かに打っていた。

 頭痛の尾を引く頭をなるべく揺らさないようにして、浴室に向かう。湯船の底に沈殿した冷気を追い払うように、いきおいよく蛇口をひねって熱い湯を出す。急ぎで半分ほど溜め、身体を横たえると、疲れでこわばっていた皮膚が、だんだんと感覚をとりもどす。

 浴槽の縁に両足を投げ出し、伸びをした。風呂場の白い壁には、足先の向いたあ

もっとみる