奥さんになりきって書いた日記12
最悪だ。
もう戻れない。
ホテルに来てしまった。
田舎だからなのか、ものすごく古びたラブホテル。
口八丁に流されて、ここまで来てしまった。
シャワーを浴びようにも、ホテルの設備がイカれ過ぎててぬるま湯しか出てこない。
私の記憶はここで終わってる。
書くのが恥ずかしいとか、そういうのじゃなくて、とにかく早く終わって欲しい。
早く家に帰って寝たい。
それしか考えてなかった。
家に帰って、朝目が覚めて、そしたらこの男はどんな顔で私に会うんだろう。
この夜が明けても私のことを好きって言ってくれるんだろうか。
都合のいい女に成り下がってしまったんじゃないか。
ぐるぐる嫌な思考が頭をよぎった。
ことが終わって、ホテルを出た。(宿泊じゃなかったのは次の日お互い仕事だから。農業という職種だからか、パートさんたちも出勤するのが早く、2人で帰ってきたのを見られてしまったらすぐに噂になるからだ。)
帰りの車の中で彼は私にこう言った。
「なんかはっきり言うの恥ずかしいんだけどさ…これ付き合ってる?って事でいいよね?」
は?この男、私の口から言わせるつもり?
自分ではっきり言うのが嫌だから、私に言わせるつもりなの?
そうはいかない。
男でしょ。あんたがどうしたいのか自分で私に伝えろよ。
「あなたはどうしたいの?」
私は冷たく言い放った。
さっきまでセックスしてた2人とは思えないほど冷えきった言葉だと我ながら思う。
「俺は…」
言い淀んでる。
「俺はね…」
そう言って彼は車をコンビニに停めた。
「来る!!告白するぞ!こいつ!!」
私の中でほぼ「王手」だった。
さぁ言え!私と付き合いたい!と!
私のことが好きだと!!
次の瞬間私は彼が「頭おかしい人間だった」ということを思い知った。
「ごめんちょっと待ってて」
彼はそう言うとセブンイレブンに向かっていった。
「お待たせー」
と言いながら車に乗り込む彼の左手には緑のたぬきが抱えられていた。
こいつ、告白するかしないかのシーンで蕎麦買いに行ったの?
私と付き合うか、付き合わないか、それを決める大事な時に
蕎麦買ってきたよこの男。
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