ディケンズ『クリスマスキャロル』訳注つき和訳(最後の2段落のみ)

最終節の最後の2段落を和訳しました。ここも既存の訳で、かなり混乱してる箇所です。直訳風に訳すと意味ある日本語にしづらい箇所は意訳や言葉を足して分かりやすくしました。

既存の訳に満足できない方へのお役に立てたら幸いです。間違いをみつけましたらぜひコメントをください。

他の箇所の翻訳も含めて以下のマガジンに、まとめてあります:

(最終更新日2022/7/24~28 色々と解釈を間違えていたので大幅に書き直しました)

Scrooge was better than his word. He did it all, and infinitely more:

 スクルージは、言葉以上のことをしました。言葉にしたことを守ったのはもちろんのこと、とてもたくさんのことをしたのです。死をまぬがれたティム坊やのことは、自分の子どものように面倒をみました[*訳注1]。スクルージは、良き友人、良き主人、良き人物となり、それは、古き良きロンドン[*訳注2]で知られるほどで、さらには、古き良き世界のあらゆる古き良き市にも、町にも、区にも、知れわたりました[*訳注3]。なかにはスクルージの変わりようを見て笑う人もいました。しかしスクルージは、笑わせたままにして、ほとんど気にもしなかった。というのも、はじめから誰かに大笑いされることを避けていたら、永久に[*訳注4]、この世では何も起こせはしない、ということがわかるくらいに賢明だったからです。そういった連中には見る目がないとわかっていたスクルージは、そのせいで彼らが良くない弊害を受けてしまう[*訳注5]よりかは、にやけて目にしわを寄せていてくれ、と考えました。そうして、心から笑い、大いに満足したのです。
 その後のスクルージは、精霊スピリッツと関わることがなく、人生を「禁酒主義」で過ごし、蒸留酒スピリッツとは無縁でした[*訳注6]。そして、つねづね、こう言われました。この世でクリスマスの上手な祝い方を知っている人物がいるとするなら、それはスクルージだ、と。願わくは、わたしたちが、わたしたちみんなが、そうなれますように。そして、ティム坊やが言うように、すべての人に神様のお恵みがありますように!

*訳注1 原文は “a second father”。ここでは意訳した。
*訳注2 原文は "the good old city" であり、the city を話の舞台であるロンドンとして訳した。
*訳注3 「古き良き」と訳した箇所は原文では"good old"である。当時の社会は、産業革命により労働環境も生活環境も大きく変化し貧富の格差が生じ、人々からは伝統的な生活様式は失われていた。そうなる前の時代を懐かしんでいると思われる。
*訳注4 原文は「, for good,」とカンマで囲まれている。成句としての「永遠に」の意味だけでなく「よいことのため」の意味も含めているのかもしれない。
*訳注5 原文は" have the malady in less attractive forms"である。ここは malady を弊害と訳した。the と定冠詞がついているのは、先の文に出てきた「見る目がない」ことでの弊害ということ。この文の解釈を当初は、色々と変に考えてしまった。参考までに、以前の解釈を残しておく。
以下、2022/07/23の変更前の内容。
病気を意味するmaladyには定冠詞theがついているので当時の人がかかりやすい何か特定の病気を想定していると思われるが不明。明らかに見た目に影響する病気としては天然痘が考えられるし、流行りとしては肺結核が考えられる。スクルージが心から笑ったのは「ニヤニヤして目のまわりにシワ(魅力ない)ができてしまってもそれでも笑顔になってくれていた方が病気で不健康な顔(魅力ない)をしているよりずっと魅力的なことだ」と洒落たことを考えたからだと思われる。また、スクルージが精霊に見せられた幻影のなかでティム坊やが病気で亡くなっていたことを思い出しているのかもしれない。
*訳注6 英語だから成り立つダジャレであり、説明的に訳した。「蒸留酒」の箇所は原文にはない。「精霊」は原文で Spirits と表記され 、お酒の種類には spirits と呼ばれる蒸留酒がある。つまり、「精霊(スピリッツ)に会わない」ことと「禁酒主義(酒を飲まない)で過ごす」から、ともに「スピリッツ」とは無縁であることを掛けた駄洒落になっている。