『高慢と偏見』【第2章】和訳

できるだけ原文に忠実に訳しました。原文でイタリックの箇所に近い箇所を太字にしてあります。間違いを見つけたらコメントいただけると嬉しいです🙇

第2章では、「訪問」と「紹介」には特別な意味があり、そこには社交上のしきたりがあったことを背景にしたやり取りが描かれています。「知り合い」となりお付き合いができるようになるには手順が必要でした。ちなみに、次女の名前はエリザベスで愛称がリジーです。

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第2章

 ミスター・ベネットは、最も早くにミスター・ビングリーを訪問したものたちの1人だった。妻には最後まで行く必要はないと言っておきながら、初めから訪問するつもりでいたのだ。訪問した日、夕方まで彼女は何も知らされなかった。打ち明けは、以下のようになされた。彼は、次女が帽子の飾りつけにいそしんでいるのを見ながら突然話しかけた。

「ミスター・ビングリーがそれを気に入ってくれるといいな、リジー」

「ミスター・ビングリーが何を好きか知りようがありません」彼女の母は憤慨しながら言った。「訪問できないんですから」

「でも、ママ、忘れてる」エリザベスが言った。「舞踏会で会うし、ミセス・ロングが紹介すると約束してくれたでしょ」

「ミセス・ロングがそんなことするもんですか。二人も姪がいて。それに自分のことしか考えない偽善者よ。あのひとには何も期待してません」

「同意する」ミスター・ベネットが言った。「彼女に頼る気がないのがわかって嬉しい」

 ミセス・ベネットは、何も反応したくなかった。だが、自分を抑えることができなくなり、娘のひとりにあたりだした。

「そんなに咳しないで、キティ、お願い!わたしの神経を少しは気づかって。神経を逆撫でするのよ」

「咳をいつするかはキティの自由にならないぞ」彼女の父親が言った。「間が悪いときにもするさ」

「楽しくて咳をするわけがないでしょ」キティは不機嫌に言い返した。「リジー、次の舞踏会はいつ?」

「明日から二週間後」

「えぇ、そうです」彼女の母は大声を出した。「ミセス・ロングは、その日まで帰って来ません。彼女自身が知り合えていないのに、紹介なんてありえない」

「なら、おまえがご友人の先をいって、ミスター・ビングリーを彼女に紹介してあげればいい」

「無理です、ミスター・ベネット、無理ですよ、あの方と知り合いになるまでは。どうして、からかうんですか?」

「その慎重さには感心する。たしかに、たった二週間では知り合えたというには短い。二週間で人を理解するなんてできはしない。だが、わたしらがやらなければ別の誰かがする。ミセス・ロングとその姪たちにも望みはあるんだ。だから、彼女たちにそうしてあげれば親切に感じるだろうし、おまえがその役を辞退するというなら、おれが引き受けるとしよう」

 娘たちは目を見開いて父親をじっと見つめた。ミセス・ベネットはただこう言った。「ばかばかしい、ばかげている!」

「その強調した叫び声はどういう意味だ?」彼は声を張り上げた。「紹介という儀式と、それを重視することが馬鹿げているというのか?賛同しかねる。メアリー、どう思う?おまえは若いが思慮深い、それに、優れた本を何冊も読んで抜き書きしているだろ」

 メアリーは、道理にかなったことを言いたかったが、どう言えばよいかわからなかった。

「メアリーが考えをまとめている間に」彼は続けた。「ミスター・ビングリーに戻ろう」

「ミスター・ビングリーには、うんざり」彼の妻は声を荒げた。

それは残念だ。なぜもっと早く教えてくれなかった?今朝知っていたら、彼を訪問しなかったのに。お気の毒様。本当に訪問してきたから、今となっては知り合うのは避けられない」

 彼の目論見通り、女性たちは驚いた。ミセス・ベネットの驚きがおそらく一番だろう。彼女は、喜びの騒ぎが落ち着くと、前からこうなると思っていたと言い始めた。

「なんて素敵なの、ミスター・ベネット。最後には分かってくれると思ってました。娘たちをとても愛していらっしゃるのに、このような知り合う機会に何もしないなんてありえないと信じていました。あぁ、なんて嬉しいんでしょう!それにまた、ジョークの凄いこと。今朝行っておいて、今まで何も言わないなんて」

「さぁ、キティ、好きなときに咳していいぞ」ミスター・ベネットは言った。言い終えると、妻の大喜びぶりに疲れた彼は部屋を後にした。

「あなたたちの父親はなんて素敵なんでしょう!」ドアが閉まると彼女は言った。「どうすれば父親の親切に恩返しできるかわからないでしょう。それは、わたしも同じ。人生もわたしたちくらいになると、ふだんの知り合いが新しくできるというのはあまり嬉しいことではありません、本当に。それでも、あなたたちのためなら何でもします。かわいいリディア、一番年下でも、次の舞踏会でミスター・ビングリーは一緒に踊ってくれるでしょう」

「ええ!」リディアはきっぱりとして言った。「心配はしてない。一番年下でも、背の高さはわたしが一番だから」

 その後は、ミスター・ビングリーのお返しの訪問がどのくらい早いかを予想したり、ディナーに誘うのはいつにすべきかを考えながら、夜が過ぎていった。

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