スピーカーを買い換えた~SOULNOTE SM10(長文注意)

 今日はこないだ買ったスピーカーの話でも。長文注意。

 SOULNOTE(現・FUNDAMENTAL)というメーカーのSM10という機種を先日導入しました。

注)現在ではSM10はSM10Zという機種にヴァージョン・アップしています。私もSM10Zにアップデートして使っていますが、以下に述べるSM10の良さはそのままに、よりグレードアップした音を聴かせてくれます。

 私は音楽についての文章を書くことを生業にしています。映画鑑賞用の5.1チャンネル・システム(正確にいうとセンタースピーカーのない4.1チャンネルですが)を組んだ別部屋でも音楽は聴きますが、ふだんは仕事場である書斎にこもって、原稿を書きながら聴いていることが圧倒的に多い。その書斎用のスピーカーをこれに換えたわけです。それまではKRKのパワード・スピーカーV4 series2を仕事用デスクにセットして使っていました。なぜKRKにしたかといえば、コーネリアスのプライベート・スタジオで鳴っているのを聞き、あまりの音の良さに仰天したから。

 KRKも快調に鳴っていたんですが、いくつか不満がありました。高域の伸びや透明感がいまいちなこと、低いところの量感が物足りないこと(これはサブウーファー併用で補っていましたが)。10年近く使ってきて、そろそろ気分を変えたいというのもありました。

 そんなおり、代々木のハイレゾバーに遊びに行ってmusikelectronic geithain のパワード・モニターRL904を聴いて、そのサイズを超えた堂々たる鳴りっぷりと、最新理論と技術を駆使した現代スピーカーの威力を目の当たりにして大いに刺激を受けました。CD音質を超える高音質のハイレゾ音源を聴く機会が増えてきた今、KRKでは対処しきれないかもしれない、という思いが募ってきたのです。

 最初はKRK同様、パワード・スピーカーで考えていました。日本ではスピーカーといえばアンプを内蔵しないパッシヴ・タイプがほとんどで、パワード・スピーカーはKRKのほかADAM、GENELECなど、ほとんど音楽制作用のスタジオ・モニターしかありません。プリアンプ内蔵のUSB-DACとかヘッドホン・アンプが増えてきた昨今、そこから直に繋げば即音が出て、やれケーブルだなんだと考えなくても済むパワード・スピーカーはもっと増えてもいいと思うんですけどね。

 RL904はペアで100万円超と、到底手の出る金額ではなく、その下のRL906も40万超と、貧乏文筆業者にとってはかなりの高額です。なので10万〜15万ぐらいで探し始めたんですが、それぐらいの価格のパワード・モニターはけっこうサイズが大きくなってしまうんですね。デスクトップに置ける小さなサイズというとペアで5〜6万ぐらいがほとんど。でもそれぐらいの価格のスピーカーでは現在のKRKからの大幅なグレードアップが望めるかどうか。そこでパワードにこだわらず、パッシヴ・タイプも購入対象に入れることにしました。KRKを導入したときに浮いてしまい、使っていなかったパワー・アンプがあるので、アンプはそれを使えばいい。

 ところがパッシヴ・タイプまで範囲を広げても、10〜15万ぐらいのコンパクトなデスクトップ向けスピーカーは意外なぐらい少ない。ざっと調べたところFOSTEXのGX-100LimitedとかKEFのLS50 Standardが目につくぐらいでした。スピーカーの低域再生能力は原則としてウーファーのサイズに比例しますから、いいスピーカーはどうしてもサイズが大きくなる。しかし防音も施していない集合住宅の狭い一室で、そんな大きなサイズのものを導入しても鳴らしきれるかどうか。

 どうしたものか考えあぐねているとき、オーディオ雑誌をパラパラとめくっていたら、SOULNOTEというブランドのSM10というスピーカーが紹介されていました。SOULNOTEというブランド名はなんとなく記憶していましたが、そこのスピーカーというのは初耳。某オーディオ評論家が書いた解説文の内容よりも、青いスピーカーユニットを使ったルックスにピンときた私は、さっそくいろいろ情報収集を始めました。SOULNOTEは大手オーディオ機器メーカー・マランツの元エンジニアで、ギタリストでもある人物がほぼひとりで運営するガレージ・メイカー。言ってみれば個性的なレーベル・オーナーが運営するインディーズ・レーベルみたいなものです。そのわりにスピーカー、アンプ、DAC、CDプレイヤーと一通りラインナップを揃えている。しかし当然宣伝力は弱いので、オーディオ雑誌などに取り上げられることも少なく、扱っているお店も限られている。ネットでSM10の評判を探ってみても、ほとんど(というかまったく)出てこない。サイズは手頃で価格もジャスト。有力候補ではありますが、情報が少なすぎる。こうなると関心が薄れるどころかますます気になってしまうのは、長年マイナーなロックやテクノばかり聴いてきたサガみたいなもんでしょうか。

 現物を確認すべく、さっそく都内のオーディオショップに出向きました。最初に行った店ではSM10は置いておらず、その上のRM10というスピーカーがありました。しかしペアで50万円という価格ほどのものは感じず(たぶん、小音量で聴いた再生環境の問題)、むしろその場で聴いたKEF LS50 Standardの方が(オーディオ仲間の野々村文宏さんが推薦してくれたこともあり)ピンときたぐらい。セールストークにのせられ、あやうくお持ち帰りしそうになったのをこらえ、そういえばこの近くの別のオーディオショップにもSM10が置いてあったなと思い出し、さっそく向かったのです。しかし聴いたばかりのRM10の印象もあり、さほど期待はしていませんでした。

 ショップに着くと、SM10は目立つ場所にセットしてありました。驚いたのはその小ささです。RM10も小さかったですが、さらに小さい。もちろん事前にサイズの数値は把握していたものの、現物を見ると、可愛らしい、という形容がぴったりするぐらい小さい。これなら私のウサギ小屋のデスクトップに置いても、もてあますことはなさそう。クルマでもそうですが、大きいものより小さくて性能がいいものが大好きな私にはツボでした。

 そして音を聴いてさらにびっくり。音の出方が抜群に軽やかなのです。コーネリアスの「攻殻機動隊ARISE」のサントラを試聴用に持っていったんですが、中高域はよく伸びて、その小さなサイズからは想像もできないぐらい低域も出る。そのお店は比較的狭く、しかもほかにお客さんがおらず落ち着いて聴けたのも好印象に繋がったのかもしれません。アンプとプレイヤーは確かアキュフェーズで、アキュは良くも悪くもあまり色のないメーカーなので、スピーカーの特徴が比較的そのまま出ていると考えました。

 かくしてほかの候補のスピーカーは念頭から消え、SM10が購入筆頭候補に躍り出ました。それからメーカーの方に使いこなしやセッティングについての細かい質問を重ね、自宅試聴用にSM10の現物を貸し出していただき(注:当時はそういうシステムがありましたが、現在はないようです。メーカーで試聴は可能)、期待した通りの音で鳴ってくれたので、導入を決めたわけです。試聴用の貸出機と入れ替わりに我が家にやってきた新品のSM10は、おろしたてということで当初は少し固さも目立ちましたが、エージングも進み、だいぶ音もほぐれてきました。もっと鳴らし込めば、もっと良くなるでしょう。


 SM10の良さは前述した通り、音の出方が抜群に軽やかなこと。重苦しさがなく、分解能が高くてクリアで透明、歯切れが良くレスポンスが速くてスピード感があり、ストレスなく音が前に出てくる。5インチの同軸2ウエイなので、超ワイドレンジというわけではないですが、帯域内のまとめ方と聴かせ方がうまい。これに比べるとKRKは音が濁っていて高域は伸びず、低域はモゴモゴしている。巷のSOULNOTEの評判として「演奏者の熱を伝えるホットな音」というものがありますが、私の印象は少し違う。たとえば昔のクレルやJBLみたいな「熱さ」というよりは、むしろソースのありのままを伝える現代的でフラットなトーンという印象です(そういう評判はたぶん、SOULNOTEという社名からくる先入観もありますね)。実際この製品はスタジオ・モニターとしての導入実績も多いようです。どちらかといえばコーネリアスのような現代的なハイファイ録音に向いていると思いますが、古いソウルやファンクもいい感じで再生してくれます。フランソワKの「essential mix」は現代的なハウス〜テクノから、古いソウル、R&B、ファンクやフュージョンなどを巧みにミックスした名盤中の名盤ですが、これなど思わず部屋の中で踊りだしたくなるぐらい雰囲気良く鳴らしてくれます。

 意外にいいのがアコースティックな音楽。音の透明度が高く繊細なので、隙間の多い音楽で良さが発揮されますね。

 打ち込み中心のテクノやエレクトロニカは、クラブの巨大ウーファーの爆音で浴びるように聴くのがベストなのは確かですが、家庭ではそれは到底不可能。でもSM10は四つ打ちのキックの音を歯切れ良く再生し、重低音成分も、地鳴りするような迫力はなくても、美味しいところだけをうまくかいつまんで聴かせてくれるので、さほど音圧をあげずとも気持ちよく聴くことができます。こないだのドミューンの田中フミヤ特集も、このSM10で聴いていたんですが、ストイックで黒光りするミニマル・テクノのキックの音が、本当に気持ち良かった。KRKの時は必須だったサブ・ウーファーも、今のところ必要ありません。


 設計したSOULNOTEのエンジニアは、B.B.キングを聴いてギタリストを志し、アメリカ滞在中は本場のブルースマンとたびたびセッションしていたという人で、もちろんそのあたりの音楽の再生はお手の物でしょう。SM10の製作は山下達郎のエンジニアをつとめる中村辰也氏のアドバイスも大きかったらしく、アルバム『Ray of Hope』のレコーディングは、このSM10を使って行われたようです。そこからもこのスピーカーのクオリティと信頼度がうかがえるのではないでしょうか。

 ともあれスピーカーを換え、ついでにCDや本雑誌や資料でほとんどガラクタ部屋と化していた書斎を整理・模様替えして、我が家の音楽再生環境は大きく変わりました。オーディオ機器を変えると聞き馴染んだ愛聴盤が新鮮に聞こえるようになり、手持ちの音源を片っ端から聞き返したくなる、という経験はオーディオ歴が長い人なら誰でも覚えがあると思いますが、今の私はまさにそれ。音楽を聴くのが楽しくて仕方ない。SM10はソースの粗をわりあいはっきりあぶり出してしまうスピーカーゆえ、ダメな録音はダメとわかってしまうんですが、それも含めて楽しい。

 もっとも、スピーカーのグレードがあがったぶん、我がオーディオシステムの問題点やボトルネックもはっきりしてしまったので、また別の悩みが出てきたことは確かです。久々にオーディオ熱がぶり返し、銀行残高を確認してため息をつく毎日であります。

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