[北海道日本ハムファイターズ観戦日記 2021]8/22 中田問題の余波

 中田問題の余波が収まりません。いろんな意見が飛び交ってますが、代表的なものはこのふたつ。中畑氏のコメントは動画なので私の責任で雑に要約すると、今回の暴力事件の謝罪会見を巨人選手としておこなうのはおかしい、その前にハム球団や栗山監督が中田本人と共に経緯を説明して謝罪するべきだった、あれだけの事件を起こしたんだから筋を通せ、というもの。えのきどいちろうさんの方は、かなり感傷的なコメントもありますが、論旨としては以下に集約されるでしょう。

いちばん違和感があったのは中田翔が巨人事務所でファンへの謝罪コメントを発したことだ。(中略)まず、札幌でファイターズファンに謝罪なり説明なりがあり、しかるが後に巨人の入団会見が行われるというのが順序じゃないか。気持ちが追いついていかないのは色んなことがすっ飛ばされているからだ。何があったのか。何で「正直、このチームでは難しい」のか。なぜ選手教育や研修のようなことでなく移籍なのか。なぜ巨人に無償トレードなのか。なぜこれほど急いだのか。

 つまりは移籍にあたっての手続きが間違っている、筋が通らない、という意見です。そのほかにも、無期限出場停止中だった選手がわずか10日ほどで解除され即1軍登録されて試合にも出たことに対しての強い批判もありますが、それは主に巨人側の事情なので、ここで言及するのは避けます。

 私は中田トレードが発表された日にこんな記事を書きました。

今回の「美談」とも言えるトレードに隠れて、中田という「怪物」を育て放置してしまった日本ハム球団の体質とチーム運営上の大きな問題点、中田を甘やかし増長させた栗山監督の責任が曖昧にされることは決して許されません。今回の問題は単に中田を美談めかして厄介払いしただけで終わりではない。球団社長以下球団フロント、そしてもちろん栗山監督が責任をとって辞職するまでがセットです。もし万が一栗山監督がこのまま監督として留任したり、監督を辞めても球団内に要職として残ったり、あるいは球団フロントが何事もなくこのまま居座るようなら、従来の「誰も責任をとらない」球団体質が温存されるようなら、また第二第三の中田事件が起こるでしょうし、現在のハム球団のどん底の惨状は、あと何年、何十年も続くことになるでしょう。

 もちろん、「中田にハムの選手として謝罪会見をさせ、その場で球団幹部も監督も謝罪する。その後にトレードの件を発表し、巨人の選手として記者会見させるべき」という筋論は、その通りだと思います。しかし私は単に球団幹部なり栗山監督なり中田が謝罪しただけでは済まない、済ませてはいけない、と考えました。手続きが間違っている、筋が通らないというだけでなく、なぜハム球団にこんな問題が起きてしまったのか、チームの最高年俸選手であり、柱となるべき中心選手が、なぜこんな事件を起こし、シーズン途中で厄介払いのように放出されなければならなかったのか、それを明らかにして、そのうえできっちり球団社長も監督も責任をとって辞任すべきだ、というのが私の考えです。

 私は8月20日の楽天戦の後、以下のようなツイートを連投しました。

 なぜ私はこんなツイートをしたのか。杉谷のプレーと中田の不祥事は、同じようにこの球団のダメ体質から生まれたものだと思ったからです。そしてこのプレーに対しての栗山監督の談話は、こんなものでした。

栗山監督は試合後、杉谷の走塁ミスに対し「ダメだけど拳士らしい」と苦笑い。「(中略)プロ野球選手がそんなことしちゃダメなんだけど、一生懸命やる中で何とかしたいというのは分かる」と話した。

 この談話を読んで私は絶望的な気持ちになりました。プロ13年目のベテランが、しかも代走や守備固めが主な働き所の選手が、こんな初歩的なミスをする。一生懸命やったんだから仕方ない、で済まされるはずがない。厳しく叱責されて当然だし、ほかの選手へのメッセージとしても、対外的にも、監督が厳しいコメントを出すべきケースです。それなのに栗山監督は冗談めかして「拳士らしい」で済ませてしまっている。もちろんこのあと、杉谷には直接注意したのかもしれません(たぶんしてないと私は確信してますが)。しかしハム球団の体質が問題視されている時期に、対外的にもこれでは示しがつかない。「トレード候補」や「戦力外」は言い過ぎましたが、ミスをするのが「らしい」選手をなぜ一軍で使う必要があるのか。今後はこういう凡ミスは許さないと監督がはっきり言明すべきでした。

 叱責すべきところを叱責せず、責任をとらせるべきとこを不問にしてしまう。選手を甘やかし、監督責任がある上の人間も誰も責任をとらない。すべてを曖昧なままにする。チーム成績がずっと低迷したままなのに、監督が10年間も居座っているのが、象徴的です。そうした球団の体質が、中田問題を生んだ。ミスしても「らしいね」の一言で済まされてしまうから、そんなもんでいいんだと選手は思ってしまう。何度も同じようなミスを犯す。そうやってチームはどんどん弱くなっていったのです。

 「ここ2、3年は学校関係者に指名の可能性を打診しても、断られることが増えてきたと聞く。今の高校生や親はチームの強さよりも雰囲気とか、どれだけ選手をうまく育てているかを重視する。その点で完全にソフトバンクや西武、オリックスから遅れている」。そう声を落とすのは日本ハムの元編成担当だ。

 私は夕刊フジの記事なんて全然信用してませんが、もし万が一これが事実なら、かなり深刻、いや致命的な事態だと思います。チームの未来を担うべきドラフト候補生たちに敬遠されている。球団のナアナアな無責任、馴れ合い、ぬるま湯体質が、選手育成にまで影響し、それがアマチュアのドラフト候補生にも伝わっている。今回の一連の件でさらに評判は地に落ちてるだろうし、取り戻すには10年単位の年月が必要でしょう。

 さらにえのきど氏が指摘するこの問題。

 ブラックボックスでない「公開情報」だと、中田の暴行行為の直後、蒸し返される感じでネット記事に上がった万波の声出しの映像がある。映像は「誤解を与える可能性がある」として球団公式アカウントから削除されたが、差別的な発言としか思えないものが聞き取れた。球団の見解は、数か月前の映像のため、発言者も発言の意図も確認できないということだそうだ。犯人探しをしてもしょうがないのだけど、もやもやは残る。僕はずっとファイターズの先進性が自慢だったのだ。「いちばんアメリカに近いNPB球団」のつもりでいた。アメリカだったらこの事案にどう向き合うだろう。(中略)世の中には内々で済ませてはならないこともある。ニュースを騒がすハラスメントの類は常にその内々の構造のなか、温存されてしまう。

 詳しい経緯と、識者の意見はこちら。

「今回の発言内容が肌の色を揶揄した差別だったのは明らかです。差別発言をした人は差別に無自覚・無頓着な場合が多いので、どんな意図だろうと、差別発言を許さない姿勢が企業には必要です。個々人のとらえ方の問題に矮小化し、『憶測や誤解を招く可能性』や『不快に思う方もいる』ことを理由に、動画を削除しても根本的な解決にはなりません」
「今回の発言の背景には、日本社会が差別発言を『内輪のいじり』『単なる誤解』として見過ごし、声を上げても過剰反応だと黙殺してきたことがあり、差別されても泣き寝入りしてきた人は多い。球団が真摯に受け止め、調査を徹底することはもちろんですが、我々一人ひとりが日本社会全体の問題として受け止めることも必要です」
「若手選手である彼(万波)は、『クレーマー』のレッテルを貼られ、キャリアに響くことを恐れていたのではないかと思います。どのチームもトラブルメーカー、特に『人種差別的なトラブル』を抱えた選手を欲しがりません。彼は、卑劣な言動にも、ただニヤリと笑って耐えるしかなかったのです」

 私もくだんの動画はだいぶ前に見ましたが、問題発言には気づかず。問題が再度表面化してからもう一度見ようとしたら削除されてしまったので、結局まだ確認できていません。しかし間違いなく人種差別発言はあったのでしょう。日本文化全体の問題は置くとしても、ごくふつうに人種差別発言が横行するような、それに対して抗議もできないような、問題視もせず平気でインターネット上で公開してしまうような、さらに、問題化すると「誤解を与える可能性がある」という理由で、何の注釈も、もちろん謝罪もなく削除してしまうような、ハム球団はそんな体質の球団になってしまった、ということです。最近も大谷の外見を揶揄した差別発言をした米スポーツキャスターが解雇されるという事件がありましたが、海外スポーツでは(もちろんスポーツ以外でも)、人種差別発言は絶対許されない行為です。本来であればハム球団は第三者委員会でも設けて徹底調査し、差別発言をした選手を明らかにして、しかるべき処分を下すべきですが、そこらの三流政治家のような「誤解を与えた」という言い草で謝罪もせず、すべてを曖昧に済ませてしまおうとしている。ここでも「無責任体質」が顕著にあらわれています。

 さらにくだんの動画で映された選手の声出し場面に漂う、なんともイヤな雰囲気です。懸命に声出ししていた万波を揶揄するような、バカにするような空気は、現在のチームを象徴しているようでした。たとえ直接的な差別発言がなかったとしても、こんなイヤな雰囲気のチームに、アマチュア選手たちは入団したいと思うでしょうか。

 この一連の問題は現在進行形なので、今後もいろんなことが起きると思います。今後の球団フロント、栗山監督の「責任の取り方」を注視したいと思います。




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