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明日なき世界

時代の持つ雰囲気というか無意識というか世相というか。
そういうものがその時代時代のヒット曲の歌詞に現れるという。
世界で起きていることとか、この国で起きていることとか。
そういうことなんか何も考えていないよと思っていても。
自然と耳に入ってくる音楽の中にそんな言葉が紛れている。
ヒットするのは時代の空気とどこかマッチしているからだ。
それほどヒット曲なんか好きじゃない僕でも耳には入ってくる。

最近、ふと思ったことはスモールワールドだ。
自分の好きなもの、推しているもの、好きな世界。
そういう小さな世界の中で幸せでいたいというような歌詞。
厭なものは目にしないでいい。好きなものに囲まれていたい。
なんとなくそんなメッセージが多いのかもなって思った。
まぁ、実際にたくさんの曲を知っているわけじゃないんだけれど、たまたま耳にした曲の歌詞が続けてそんなイメージだった。
どうしたって世の中で目立つのは、自己顕示欲や承認欲求の強い人たちで、インフルエンサーだとかそういうことになるのだろうけれど、そんなのは実はごくごく一部の人で、多くの人は自分の好きな世界で小さなほっこりするような幸せを感じていたいということなのかもしれないなぁと思った。
そう考えるとなんか、ああ、うん、そうだよねぇと納得してしまうというか。
そのあまりにも正しい幸せの形に羨ましくなったりもする。

ま、冒険しようぜ的な歌だってきっとたくさんあるんだろうけれど。

手の平に乗る端末で世界と繋がっている時代にもう広さなんて意味がないのかもしれない。
手の平に乗る幸せで充分なんだよっていうメッセージは強烈だ。
どこにでもあるような幸せ。尊いこと。
思えば、若い監督作品でもそういう作品をいくつも観た。
それは案外、若い世代だけじゃなくて今を生きる全ての世代が求めているものなのかもしれない。

冷戦構造の時代にハイティーンを過ごした僕は、別に東西がどうだの左右がどうだのなんて対して考えていなかった。政治的なごたごたもまあ繰り返して毎年のように総理大臣が変わっていたけれどそれも斜めから眺めていた。
今と大して変わらない。同じように芸能ゴシップ記事で盛り上がり、殺人事件で盛り上がる。そんな世の中だったと思う。
でもあの頃に流行っていた歌詞を思い出すと、ああと思うことがある。
明日なき世界、明日が来なくても、明日世界の終わりが来ても、世界が終わるまでは、ボタンが押されりゃそれで終わりさ。
思い出す曲の中に何度も何度も、明日が来ないかもしれないという歌詞が出てくる。
そう聞くとネガティブな曲だと思うかもしれないけれど、そういう言葉が出てくる曲の歌詞はとってもポジティブだった。
明日が来なくたって、今、どう生きるかだろ?と問われていたのだと思う。
要するに僕たちは大して冷戦構造なんて深く理解していなかった割には、どこか刹那的に生きていたのかもしれない。

当時の幸せって勝ち組になることって平然と言われてた。僕はそんなことは思わなかったけどさ。
スモールワールドな小さな幸せとは真逆の発想だ。

どちらが良いとか、どちらが悪いとかはわからない。
それにきっと僕の耳に届いた曲なんてきっと偏りがあるだろう。
昔もスモールワールドな歌詞はあったし、今も明日が来ない歌詞があるだろう。
たまたま僕が傾向と感じているだけなのかもしれない。

僕はそういう時代の雰囲気を横断してきて映画『演者』を製作した。
僕の無意識のどこからそんな答えが出たのだろう。
そんなことをぼんやりと考える。
僕の手の平は今、世界と繋がっている。
あの頃の僕は今の僕の作品をどう評価するだろう。

明日なんて永遠に来ないと誰かが言った。
あるのはいつだって今日だけだと。
ジョーは明日のためにその1を繰り返した。
明日が来なくても。
僕もあなたも明日いなくなったとしても。
僕は今日を生きたと胸を張れるだろうか。
最後まで踊り続けたと笑えるだろうか。

明日なくなる世界は小さな世界なのかな。大きな世界なのかな。

あの頃の僕はきっと見抜くのだろう。

映画『演者』

企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル

「ほんとう」はどちらなんですか?

◆終映◆
2023年3月25日(土)~31日(金)
K'sシネマ (東京・新宿)

2023年4月15日(土)16日(日)
シアターセブン(大阪・十三)

2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)

出演
藤井菜魚子/河原幸子/広田あきほ
中野圭/織田稚成/金子透
安藤聖/樋口真衣
大多和麦/西本早輝/小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟 録音 高島良太
題字 豊田利晃 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希 制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。