見出し画像

名もなき男

坂本龍馬という人物を初めて演じたのは自分が劇団前方公演墳に参加して4作品連続で主演をやらしていただいた次の「IZO」という作品内でのことだった。人斬り以蔵と恐れられた幕末の志士を描く作品で自分は坂本龍馬を演じることになった。もちろん主演は岡田以蔵になるから自分はきっと駄目になったのだ、失敗したのだと思って反省したことを覚えている。以蔵役が最後の3人に絞られてからその3人で話をしたことも覚えている。あの時結局自分はその候補の一人に以蔵役やれよ!とむしろはっぱをかけていた。自分の中の自分と齟齬があったようにも思うのだけれど、そういうことでもなかったような気がする。結果的に作品は評判を呼んで幕末作品が連続することになって、坂本龍馬を中心とした作品2本で主演になり再演までされたのだからあの時の自分は何かを予感していたのかもしれない。

実際に演じるまで坂本龍馬という人物を正確に把握できていなかった。例の野太い声で「ニッポンの夜明けは近いぜよ」な人物なのだと認識していたと思う。けれどその人物像はてんで外れていて実像に迫れば迫るほど世間のイメージから乖離しているのだという事を知り、結局、どんどん坂本龍馬という人に自分はのめりこんでいった。現在では好きな歴史上の人物の投票をすればトップ3に入る坂本龍馬さんも元をたどれば無名の人物だった。明治の後期になって地元の新聞連載で小説になったけれど、それでも全国区ではなかったし、勝海舟や陸奥宗光が人物評を残したってそれを知っている人の方が圧倒的に少なかった。明治維新の立役者は西郷隆盛や桂小五郎であって坂本龍馬なんて口にしたところで、誰なの?と言われる時代の方が圧倒的に長かった。司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」の連載が大人気となってそれからやっと全国区になったのが坂本龍馬さんだ。司馬遼太郎さんは美濃のマムシこと斎藤道三など多くの歴史上の人物を掘り起こしている。その中でも坂本龍馬さんは別格に大ブームになった。

ここから先は

1,960字
週刊発行で月額300円で全てご覧いただけます 週刊と言いつつ、それよりも少し多めにお届けするかもしれません また、書いてるよ・・・と思いませんように

能書き新聞

¥300 / 月 初月無料

SNSじゃ書けないこととか、劇団運営とか、映像制作とか つぶれていく無謀なアイデア群とか 今週のアイツ、ニュースに一言、インディペンデント…

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。