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二つの世界

音楽を聴いて痺れた。
小説を読んで震えた。
映画を観て泣いた。
落語を聞いて笑った。

だからなんだと言われそうだけれど。
たったそれだけのことなんだけれど。
そういうことが一つもなければどれだけ寂しいだろうか。
日々の暮らしの中にも心が動くことはたくさんあるけれど。
日々の暮らしはやがて習慣化して埋没していく。
だから人は旅に出るし、山に登るし、海で泳ぐし、空を飛ぶ。

何か起きれば不要不急と切り捨てられることを今は知ってる。
けれど同じぐらい飯を食って寝るだけでは人ではなくなることも知ってる。
人が人であるためには感情が動かなくてはダメなのだ。
肉体の健康は保てたって、心の健康はどんどん錆びていく。
それは恐らく根源的な本能に近い場所にある何かが求めている。

高校生の頃の記憶が授業にはなく、放課後にあるように。
僕たちは無駄だと言われることに価値を見つける。
だから無駄な時間なんてない。
誰かが無駄だと決めつけているだけの話だ。
そして落ち着いて考えてみれば人生などその大半が無駄の繰り返しだ。
意味ある瞬間などどれほどあるというのか。

退廃的になって遊び尽くせと言うわけじゃない。
僕は長い長い時間をかけて、稽古をして芝居のことを考え続けてきた。
それが面白かった。夢中になった。
そのことをいつまで遊んでいるんだと何度も繰り返し言われたけれど。
僕にはとても重要なことだった。
社会にとっても、大人にとっても、無駄に見えただろうけれど。

よく映画界はとか、演劇界はと聞くけれど。
そんな世界ってほんとうにあるのだろうか?
確かに共通の知り合いはいるし、横のつながりもあるかもしれない。協会なんかもあるようだ。でもそんな世界あるのかな。
別に一匹狼を気取っているわけではなくてさ。
映画とか演劇とは世界そのものを創作することなのに、その外側に現実の世界以外の世界なんか必要なんだろうか。
暗黙の了解とか、業界のルールとかもあるのかな。無駄だよな。
映画の世界ではさ、、、みたいなことを口にするやつが古い慣習を引きづるんだし、そんな世界を変えよう!という人もいたりして、なんだかそもそもそんな世界はないじゃんかって僕は思うのだけれど。
コネクションが出来るとがんじがらめになるのかな。
何かに帰属して創作なんか出来るかよって思うよ。
だってさ、現実の世界と相対しているんだから。
その世界から無駄だと言われたり、その世界に生きる人が振り向いてくれたりするんだからさ。

映画でも演劇でも、出会った人がそういう世界の住人だと感じたことも一度もないんだな。
たまたま僕が出会った人たちは、対世界だったのかな。
あ。芸能界みたいなことは何度か聞いたか。
聞いてもあんまり関係ねぇやって思っていたからかもしれない。
スルーしてたし、それをすごいと思ったこともなかった。
そんな世界あるのかなあ。ってのが本音。
共同幻想にすぎない。お前はお前だろって思ってた。

シンプルな話だ。

音楽を聴いて痺れた。
小説を読んで震えた。
映画を観て泣いた。
落語を聞いて笑った。

それが人生を彩る。
それこそが人生だと言ってもいいぐらいだ。
そこには二つの世界しかない。
創作された世界と、僕の心の世界。
それ以外は全部ノイズだ。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【次回上映館】
未定

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映◆
・2023年11月18日(土)~24日(金)
ユーロスペース(東京・渋谷)

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。